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【書籍・漫画化しました!】異世界メイドの三ツ星グルメ ~現代ごはん作ったら王宮で大バズリしました~【旧題・美食おぼっちゃまの転生メイド】  作者: モリタ


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お米と収穫とジャクリーン7

「はあっ、はあっ……どこ、どこ……」


 ジャクリーンを探して、広大な庭を駆けていく私。

噴水を通り過ぎ、生け垣のあたりを探していると、そこで木々の切れ間からメイド服の裾がはみ出していることに気づきました。


「いたああああああああ!」

「きゃあああああああああああっ!?」


 生け垣にズボッと首を突っ込んで叫ぶと、そこで三角座りをしていたジャクリーンが悲鳴をあげます。

しまった、怖がらせてしまいました。


「なっ、なっ、なっ……なによ、シャーリィ!? びっ、びっくりするじゃない! なっ、何しに来たの!?」


 怯えた様子で後ずさりながら言う、ジャクリーン。

私は強引に生け垣に体をねじ込み通り抜けると、ジャクリーンの前で、泣きそうな気持ちで頭を下げました。


「ごめんっ、ジャクリーン! 私、謝りに来たの。カッとなっちゃって、それで、あなたの話を聞かずに殴っちゃったりして……ごめんなさい!」

「えっ……」


 するとジャクリーンは、一瞬呆けた顔をし。

やがて、顔を歪ませました。


「なっ、なんであんたが謝るのよっ……。悪いのは、私じゃないっ……! そっ、そんなのっ……」


 そして、ばっと私にしがみついてくると、大粒の涙を流しながら言ったのでした。


「……ごめんなさい! ごめんなさいっ……!」


 そんな彼女を抱きしめながら、私も「ごめんなさい」と繰り返し。

私たちは、何度も何度も謝りあったのでした。


◆ ◆ ◆


「……本当に、ごめん。お酒に酔ってあんなことするなんて、自分でも最低だと思ってるわ……」


 やがて落ち着いたジャクリーンが、そう言います。

私たちは芝生の上に座り合いながら、色んな話をしました。


 家庭のこと。仕事のこと。料理のこと。

そして最後に、彼女はこんなことを言い出したのです。


「私、メイドを辞めるわ」

「えっ!」


 それは……それは、どうなのでしょう。

せっかくここまで頑張ってきたんだし、地位もあるんだし。

こんなことで、辞めることはないんじゃないでしょうか。


 お米は大丈夫になったのだし、みんなだって一言詫びればきっと気にしません。

この事を気にして辞めることはないわ、と私が説得を始めると、ジャクリーンは小さく笑って言いました。


「ううん、やってしまったことの責任は取るわ。このままなんて、駄目よ。何より、自分で自分が許せないの。私は……料理人失格だわ」

「そんな……辞めて、どうするつもり?」

「別の仕事を探すわ。私……本当は、服飾の仕事がしたかったの」


 えっ、と驚いていると、ジャクリーンは申し訳無さそうに続けます。


「本当は、豪華なドレスを着たり、綺麗な格好をしたかったんだけど。駄目なら、作る側になりたい。ずっとそう思ってたのに、私、それを知らんぷりしてごまかそうとしてた。……あんたを見てイライラしてたのは、あんたが私の諦めた、自分の好きな生き方をしてるからだと思う。ごめん」

「…………」


 なんと応えればいいのかわからず、私は黙って聞いているしかありません。

私は自分のことで精一杯で、人の気持ちまで考えていませんでした。

それが、誰かを苦しめるなんて考えたこともなかったのです。


「なんだか、責任を取るのがついでみたいになっちゃってごめんなさい。でも、決めたの。大変だろうけど。……親には、勘当されちゃうだろうけど。それでも、私、やりたいの」

「……そう」


 ここは、もっと引き止めるべきなのかもしれません。

ですが、そう言うジャクリーンの目が綺麗に輝いていたので、やめました。


 私がなにか言ったって、彼女は自分の決断を押し通すことでしょう。

一度好きなことをすると決めた人を、他人がどうこうすることはできないのです。

だって、私だってそうなのですから!


「アテはあるの?」

「ないわ。でも、貯金はあるし、家を借りてどこか修行先を探すわ。貴族の娘だってバレると、けっこう大変だろうけど。なんとかするわ」


 服飾は庶民の仕事なので、貴族出が就くのはたしかに難しそうです。

面倒がられて、弟子として受け入れてもらうのは大変かもしれません。

彼女はとても器用なので、仕事に就けさえすればどうとでもなりそうなのですが。


 そこまで考えたところで、私の中に、ある考えが生まれました。


(……そうね。言うだけ言ってみようかしら)


 そこで、私はじっくりと考えをまとめ、そして。

恐る恐る、彼女にこう切り出したのでした。


「あのね、ジャクリーン。なら、もし良かったら、提案があるんだけど」


◆ ◆ ◆


「初めまして、大魔女様。お噂は、聞き及んでおります。父が、とてもお世話になったとか。代わってお礼申し上げます」


 その日の、夜。

王宮のダイニングルームで、おぼっちゃまが、そう、おばあ様……大魔女様にご挨拶なされました。


 今宵は、大魔女様が突如として王宮に来たというので、慌てて歓迎の夕食会を開くこととなったのです。


「イッヒッヒ、立派になったねえ、ウィリアム様。……実は、会ったのは初めてじゃないんだ。あなたが生まれた日に、私も祝福に来たんだよ。覚えてなくて当たり前だけどねえ」


 なんと、おぼっちゃまの誕生をおばあ様が祝福してくださっていたとは!

どうりで、賢くて可愛くて、お腹が丈夫で可愛くて、とっても可愛いわけだわっ!


 なんて、部屋の隅に控えている私が感動していると、そこでおばあ様がこちらを見て言いました。


「まあ、今日はあの子の料理を食べに来たんだけどね。冬に食べさせてもらってから、私はすっかりあの子のファンでね」

「わかります、大魔女様。余も、シャーリィの作るものには目がありません」


 なんて二人して言うので、少し照れてしまいます。

最近、私、褒められすぎじゃないですか?

そんな大したことはしてないのですが。


「身に余る光栄でございます! さあさ、どうぞお座りください。今、料理をお持ちしますわ!」


 そう言って、椅子を引きお二人に座っていただくと、私はアンたちに合図を送ります。

さて、このような場面に出す料理。

普通なら緊張してしまうところですが、今日の私に不安はありません。


 なぜならば、今宵の料理はまさに、最強無敵の一品だからです!

そして皿が並べられ、そのあまりにも個性の強い料理に、お二人の視線が吸い込まれるのを確認し。


 私は、高らかに、自慢するようにその料理名をお伝えしたのでした。


「こちら、カツカレーにございます!」

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