お米と収穫とジャクリーン6
「おばあ様、どうしてここに……あっ」
そこで、私は思い出しました。
そうだ、お米が出来たら食べに来てくださる約束だったのでした。
でも、もうお米は……。
「……ごめんなさい、おばあ様。私……託してくださった、お米を……」
「わかってるよ。みなまで言うんじゃないよ、こいつだろう?」
私の言葉を遮り、おばあ様は手にした空のワイン瓶を掲げてみせます。
「まったく、酒ってのは毒だね。人から正常な判断力を奪っちまう。だが、今なら間に合うだろうよ。さあ、ついてきな」
そう言うと、おばあ様はゆっくりと貯蔵庫へと向かいます。
慌ててついて行くと、おばあ様は駄目になったお米の前で立ち止まり、瓶を向けながら独り言のように言いました。
「本当は、こんなズル、するべきじゃないんだけどねえ。まあ、元は私が与えたものだし、一回ぐらいはいいだろう……見ておいで」
そう言うと、おばあ様はお米の上で、グルグルと指を回し始めました。
何をしているんだろう、と見ていると。
そこで、信じられないことが、起きたのでした。
なんと……なんと。
お米の袋から、むわっと赤い霧のようなものが湧き上がり。
するすると、瓶の中へと吸い込まれていくではないですか!
「うそっ……!? なに、これ!? まさか、ワイン……!?」
「そうさね。このワインは、この瓶からぶちまけられたものだろう。まだお互いに、縁があるからね。私にだって、これぐらいの芸当はできるのさ」
これぐらい、というレベルではないと思いますけれども!?
うそでしょ……これ、完全に魔法だ!
私たちが驚いている間にも、ワインはどんどんお米から分離して、瓶の中に吸い込まれていきます。
そうして、瓶の中にワインが半分以上溜まったあたりで、ぴたりとその不思議な現象は終わり、そして。
「うそっ……うそっ!」
思わず、すがりつくようにお米の袋に飛びつく私。
すると、そこには確かに。
……元の、白く輝く綺麗な姿に戻った、良い匂いのお米が残っていたのです!
「嘘でしょ……!? こんな、こんな……!」
「やれやれ、久しぶりにやったから疲れちまった。いいかい、この事はあんたら以外には秘密にするんだよ」
当たり前のことをしたとばかりにそう言って、イッヒッヒと笑うおばあ様。
アンたちも、信じられないといった顔で呆然としています。
ああ、本当に、本当に信じられない。
もう、来年まで会えないと思っていたお米が、こんな……こんなっ……!
「おばあ様! ありがとう!!」
感動のあまり、ガバッとおばあ様に抱きついてしまう私。
凄すぎる!
この方は……本物の、魔女だ!
私が感動に打ち震えていると、おばあ様は「おっとっと」と呟きながら、私を優しく抱き返してくださいました。
「イッヒッヒ。これを見せた後も、私に抱きついてくるとはねえ。大体は、気味悪がって二度と寄ってこないんだけどね。よしよし。大変だったねえ」
そう言って、私の背中を優しくさすってくださるおばあ様。
誰が気味悪がったりするものですか。
私にお米を譲ってくださり、そして今、こうして助けてくださる。
魔女どころか、この方は私の天使です!
……ですが、そこで私はふとあることに思い当たり、こう尋ねたのでした。
「あのう。もしかして、ですけれども。……例の未来を見る力で、最初からこうなることもわかってらしたのですか?」
「イッヒッヒ。さあてねえ」
わかりやすく、はぐらかすおばあ様。
あ、これ、知ってましたね完全に……。
なら、そうと教えておいてくれたら、私があんなにみっともなく泣きわめくこともなかったのに。
「それより、あんた、いいのかい。話さなきゃいけない相手がいるんじゃないのかい」
「あっ……」
そこで、私はハッと自分がしたことを思い出し、青ざめてしまいます。
なんてこと……大変だ。
私、ジャクリーンにとんでもないことをしてしまいました!
彼女は、あの時、酷く動揺していました。
それで、何かを言おうとしていたのに、私は彼女の話も聞かずに暴力を振るい、ひどい言葉を投げかけてしまった……。
「なんてこと……私、最低だわ……」
酷い後悔の念が湧き上がってきます。
お米は来年もとれるけど、人の心はそうはいきません。
みんなの前で、あんなひどい目に合わされたジャクリーンは、どんな気持ちだったろう……。
話を、しにいかなくちゃ。
でも、ジャクリーンがどこにいったのかがわからない。
広い王宮の、どこを探せば……そう思ったとたん、アンが言いました。
「……噴水の近くの、生け垣のあたりかも。私、あいつがあのあたりでサボってるのを、何回か見たことがあるわ」
「わっ……。ありがとう、アン! 私、行ってくるわ!」
「うん、シャーリィ。今日の仕込みはこっちでやっておくわ。しっかり!」
「お姉さま、お気をつけて!」
そう仲間たちに見送られ、私は、ジャクリーンの元へと必死に駆け出したのでした。




