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お米と収穫とジャクリーン1

「収穫だーーーーーーーーーーーーー!」


 秋。

見事に実ったお米たちを前に、私は喜びを爆発させました。


「はあ、やっとできたわね……。ほんっと苦労させられたわ、この子たちには!」


 私の横に立っているアガタが、ため息とともに言います。

ですが、その顔には確かな満足の表情が浮かんでいました。


「あんたが種を持ち込んできた時には、びっくりしたわよ。見ただけで、めちゃくちゃ気難しい子達だってわかったもの。よくここまでこぎ着けたものだわ、ほんと」

「ありがとう、大変な思いさせてごめんね、アガタ。愛してるっ!」


 小柄な彼女にぎゅーっと抱きつきながら、感謝の言葉を告げる私。

今年の始め、米の種もみを手にアガタの元を訪ねてから、はや半年以上。


 私の頼りない米作りの知識と、アガタの能力……植物と会話ができるそれを組み合わせ。

ついに、私たちはお米づくりを成し遂げたのです!


(しかし、お米づくりって大変だとは聞いていたけれど、ここまでとはね……)


 本当に、それは想像を絶する作業でした。

まず、お米を作るには田んぼに水を張らねばなりません。

つまり、水路づくりから始めねばならなかったのです。


 冬の間に水路を掘り水を引き、田んぼのために深く土を耕し。

種もみは別で選別し、苗まで育て。

そして春には、田んぼに一本一本手作業で植えていく。


 言うのは簡単ですが、ここまでだけでもほんっとうに大変な作業なのです!

自分のためのお米だからと、もちろん私も作業に参加したのですが、農業というものがここまで大変だとは。


 冬に、硬い土を掘るのはとてつもない重労働で、私は何度も弱音を吐いてしまいました。


「ううっ、腰がっ……腰が、痛いわ……」

「しっかりしなさい、シャーリィ! まだ半分も出来てないわよ! あんた、腰が入ってないから痛めるのよ。腰を入れなさい!」


 春になって、田植えをするのもまた大変。

水を張った田んぼで、中腰になりながら苗を一本一本大事に植えていきます。


「うっ、中腰辛い……でも、頑張る! 苗のみんなも頑張って! しっかりと根を張るのよ、根を!」

「そう、そうよ、シャーリィ。話しかけてあげたら、この子達も喜ぶわ。一生懸命生きようとしているのを感じる。ちゃんと育ててあげれば、良い子に育ってくれるわ!」


 夏になって、今度は大敵が。

虫や病気もそうですが、なにより。

この国では、夏に嵐がやってくるのです!


「ちょっと、シャーリィなにやってるの! 嵐の中であんたが立ってたって、作物を守れやしないわよ!?」

「離して、アン! 私の可愛い稲たちが倒れないよう、守ってあげなくちゃいけないの! 田んぼの様子を見なくちゃいけないの!」


「だあっ、あんたが先に倒れるわよ! アガタがちゃんとやってくれるから、大人しくしてなさいっ!」


 そして、秋。

可愛い我が子達が穂を実らせたら、今度は盗人たちとの戦いが始まりました。

そう、にくたらしい鳥どもです!


「こらー! 私の稲にたかるな! 向こういけー!」

「大変だね、シャーリィ。だが安心したまえ、このボクが鳥どもを寄せ付けない装置を作ったよ! 水の流れで動いて、とてつもない音をかき鳴らし続けるんだ!」


「だーっ、ジョシュア! 私の農園に変な装置をつけないで! 騒音で寝られなくなるわよ!」


 こうして、長い長い戦いの日々が続き……そして今日。

ついに、私たちはそれが実る日を迎えたのです!

作業服に着替え、手袋をし、カマを構え。


「いざ、出陣!」


 楽しい楽しい、稲刈りの始まりです!

本当は、収穫の時期にはアガタを手伝ってくれる方々がいるのですが。

お米の収穫だけは、自分たちでやりたいと決めていたのです。


「お姉さま、これでいいですかっ?」

「ええ、それでいいわ。いい感じよ、クロエ!」


 同じく作業着を着て、私の横で作業を手伝ってくれているクロエに応えます。

収穫は、全部を一日で終えないといけない大変な作業。

なので、クロエとサラがぜひ手伝わせてくれと言ってきてくれたのでした。


「んしょ、んしょ……」


 刈った稲はどんどんサラが運んでくれて。

それをアンとジョシュアが、木材を組んで作った台にどんどん架けていってくれています。


 これは、稲架掛(はさが)けというお米を乾燥させる作業。

稲を刈った後は、こうしてしばらく天日干しして乾燥させる必要があるのです。


「はあ、凄い。実がずっしりだわ。こんな感じで出来るのねえ」


 とは、隣でどんどん稲を刈ってくれているアガタの言葉。

アガタは稲たちと会話し、育て方はわかっていたらしいですが、完成した姿は初めて見ています。


「これがどういう感じの料理になるのか、興味津々だわ。ここから先は、あんたの作業ね。楽しみにしてるわよ、シャーリィ」

「もちろん! 最高の料理を期待していて、アガタ!」


 満面の笑みで応える私。

アガタには、本当に感謝しかありません。

種もみだけあっても、私だけでは絶対に育てることができませんでした。


 ああ、なんていい友達を持ったのでしょう、私は。

それに、こんな大変な作業を笑顔で手伝ってくる皆にも、心の底から感謝です。


 仲間と迎える収穫の季節がこんなに素敵なものだったなんて。

作って消費するばかりだった私は、初めて、自分で生産する喜びを味わったのでした。

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