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【書籍・漫画化しました!】異世界メイドの三ツ星グルメ ~現代ごはん作ったら王宮で大バズリしました~【旧題・美食おぼっちゃまの転生メイド】  作者: モリタ


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ドーナツの騎士様とお土産スイーツ2

「ああ、もうじきだわ、もうじき! もうじき、可愛いローレンスが帰ってくるっ!」


 ある日の、お昼すぎ。

王宮から近い場所にある豪邸のリビングで、彼女……ローレンスの母親である、マリアンヌが喜びの声を上げました。


 歳の頃は、四十ほどのマリアンヌ。

ですがその顔は中々に若々しく、美しく、動きも軽やかです。


「ああ、ローレンス、やっと会える、やっと会えるわ! 145日ぶりねっ!」


 マリアンヌにとって、ローレンスは自慢の息子。

美しく、才覚に溢れ、なにより親思いな最高の息子です。

それはもう、目に入れても痛くないほどに、彼女は息子を溺愛しているのでした。


 ですが、そんな彼女を、書類に目を通していた眼帯の男……ローレンスの父親であるセドリックが、固い声で咎めます。


「そうはしゃぐな、マリアンヌ。成人した男に、親がそのような腑抜けた態度を取るものではない」

「あっ、もっ、申し訳ありませんあなた。私ったら、つい」


 言われて、慌てて姿勢を正すマリアンヌ。

二人は夫婦でしたが、そこには明確な上下関係がありました。


 二人は、親に言われるまま結婚した仲。

嫁いできた身の上であるマリアンヌにとって、セドリックは絶対的な存在なのです。

王に仕えるようにひたすら尽くしているので、たしなめられたら控えねばなりません。


 特に、セドリックは武人で、厳格な人物。

長く国のために人生を捧げ、今も尽くし続ける偉大な人物です。

妻とは夫を立てるもの、とひたすら教え込まれてきたマリアンヌにとって、それはあたりまえのことなのでした。


「いや、そこまで反省することはないが……」


 しゅんとしている妻に、セドリックはバツの悪そうな顔をします。

結婚してもう数十年になりますが、セドリックはいまだにマリアンヌとの距離の取り方がわかりません。


 元々、忙しく働いていたセドリックは、マリアンヌとの時間をあまり取っていませんでした。

引退後、急に一緒にいるようになって、どう接すればいいのかわからないのです。


 特に、自分の雰囲気が怖いので、妻を怖がらせてしまっているのではないか。

根は優しいが不器用なセドリックは、それを気に病んでいるのでした。


 夫婦なのに、いまだに互いの距離のとり方がわからない二人。

そんな二人にとって、ローレンスの存在は数少ない共通の話題なのでした。


「あっ、馬車の音が……帰ってきましたわ! 私、出迎えて参ります!」


 やがて、屋敷の入口にガタゴトと音を立てながら馬車が止まって、マリアンヌは慌てて迎えにいきます。

大きな玄関の戸を開け放ち、ローレンスがこちらに向かってくるのを確認すると、マリアンヌは元気に叫んだのでした。


「おかえりなさい、私の可愛いローレンス! 待っていたわ! さあ、疲れたでしょう、私がっ……」


 ですが、その言葉はやがて小さくなって消えてしまいました。

最愛の息子、ローレンス。

その隣に、なんと人がいることに気づいたからです……しかも、女!


(えっ、うそっ……。誰、誰なのこの女っ……!? 家に連れてくるなんて、まさか……まさか、ローレンスの彼女……!?)


 それは、マリアンヌにとって、衝撃的な事でした。

息子が大事すぎる母親にとってはよくあることですが、息子の恋人とはつまり敵。

いつか結婚するものとわかっていても、その存在を簡単には飲み込めません。


 しかも連れてきた相手は、顔は可愛いものの、どう見ても庶民!

雰囲気や立ち振る舞いが、庶民感丸出しです!


 なんなの、この娘!

私の可愛いローレンスに、どう見ても釣り合う相手ではないわ!と、マリアンヌは激高し、きっと目を吊り上げました。


 ですが、それに気づかない様子でローレンスがニッコリと笑い、隣の娘を紹介します。


「お久しぶりです、母上。今日は、人を連れて参りました」

「初めまして、王宮でメイドをやっております、シャーリィですわ! 本日は失礼いたします、ローレンス様のお母様!」

 

 王宮のメイド? 王子様に仕えるという、メイド!

その身分を利用してローレンスに取り入ったのね、この泥棒猫!

そうカッとなったマリアンヌは、勢いに任せて刺々しい言葉を放ったのでした。


「……あなた。失礼ですけど、当家は由緒ある家系の者しか、嫁としては認めていませんの。ぬけぬけと、我が家の敷居をまたげると思わないでちょうだいっ!」


 それは、宣戦布告でございました。

お前なんかが我が子の妻になれると思うなよ、という。


 ですが、シャーリィはキョトンとした顔をしたあと、ああ、と呟き、そして笑顔で答えたのでした。


「いやですわ、ローレンス様のお母様。私、そういう身分ではございません。ローレンス様とは、ただのお友達にございますわ!」


 ……お友達。お友達?

息子と、この女が?


 それは、マリアンヌにとって理解できないことでした。

友達とは、平等な関係のことを言います。

そして男女とは、平等ではないもの。友達になどなれるわけがありません。


 なら、この言葉には別の隠された意味があるはず。

友達、つまり、共に遊んだりする仲。

男女で共に遊ぶと言えば、それはつまり……。


(いかがわしい関係のことっ……。つまり、息子にとってこの女はっ……)


「……情婦!」


 とびきりの拡大解釈をした後、そう叫び、マリアンヌは泡を吹きながら、バタンとその場に倒れ込んだのでした。

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