表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍・漫画化しました!】異世界メイドの三ツ星グルメ ~現代ごはん作ったら王宮で大バズリしました~【旧題・美食おぼっちゃまの転生メイド】  作者: モリタ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

129/278

お店と幼なじみとつるつる麺類7

 シャーリィがアルフレッドのお店に関わるようになって、数カ月後。

ちょうど、シャーリィが王子に唇を奪われた、ひと月ほど後のことです。


 エルドリアの街の、大きな通り。

そこに、大勢の人だかりができておりました。


「おい、なんだこれ? なんでこんなに人が集まってるんだ?」


 市民の一人が不思議そうに尋ねると、別の一人が答えました。


「いや、それがな、なんだか妙なものが出てるんだ。大きな木の板に、変な絵が描かれていてな」

「変な絵だって? どれどれ」


 言って覗き込むと、そこにはたしかに建物の壁に貼り付けられた、木の板がありました。

そしてその表面には、奇妙な人物画と、なにやら文字が書かれていたのです。


 その描かれた人物……屈強な肉体をした、船員らしき人物は、感動の涙を流しながら、なにか白くて細長い食べ物をすすっていて。

そして、その横にこんな言葉が添えられていたのです。


「海の男の、最新メシ。エルドリアに来て、食わずに帰るな。この道を200m」


 そう、それは宣伝の看板なのでした。

そこに描かれているのは、目を引くイラストに、キャッチコピー。

それは、港から大通りに向かう船員たちを、脇道の店に誘うためのものでした。


 それを見て、市民たちは不思議そうな顔をします。

なぜなら、エルドリアにはまだ、宣伝看板という概念がなかったからなのでした。

意味がわからない。

だけど、美味しそうに絵の男が食べている、謎の食べ物は気になって仕方ありません。


 海の男の最新メシ?

つまり、これは流行っている食べ物なのか?

流行りものなら、試してみたい。少なくとも、見れば話の種ぐらいにはなるだろう。


 そう考え、皆の足は自然と、看板が指し示す方向へと向かったのでした。


◆ ◆ ◆


「皆さん! いよいよ、開店の日を迎えました! いよいよですよ、いよいよ!」


 年の始めにアルフレッドの手伝いを引き受けてから、ほぼ半年。

店の改装やマニュアル作り、生産ラインの構築、さらに従業員の教育などのためには、少なくともこれぐらいの日数がかかるものなのでした。


 それらの指示を全て手紙だけで行うのはなかなか厳しく。

無理を言って半日の外出許可をもらったりして、どうにか進めてきたが、いよいよ開店の時がまいりました。


 今日だけは自分が現場にいなければ、と、メイドの方はお休みを頂いております。

心苦しいですが、クロエとサラがかなり頼りになるようになったので、アンは笑って送り出してくれたのでした。


「いいですか、一に笑顔、二に提供スピード。店内は、とにかく清潔に。受け答えは、マニュアルを必ず守ってください。皆さん、いいですね?」

「はい、オーナー!」


 私の言葉に、白い清潔感のある制服に身を包んだ従業員の皆様が、元気に答えてくださいました。

厳密には私はこの店のオーナーではなく、その娘なのですが、面倒なのでオーナーで通しております。


 そして、従業員の皆様は、普段は主婦をしている方々。

それぞれ空いた短い時間で勤めてくださる、貴重な戦力にございます。

こういう元気な主婦にお店を任せたほうが色々うまくいくことを、私は経験上よく知っていたのでした。


 そして、店内はしっかり改装され、白くて清潔感のある壁に、L字の綺麗な木製テーブル。

さらにちらりと見える厨房も美しく整え、新しい木材と、料理の匂いが充満していて実にいい感じ。


 うーん、良いお店になりました!


「うっ、うう、緊張してきた。本当にお客さん来てくれるかなあ……不安だなあ……」


 なんて、オドオドしながら言っているのは、同じく白い制服を着たアルフレッド。

前は無意味に自信満々だったくせに、ずいぶんと気が小さくなったものです。

失敗の日々を重ねて、ようやく現実的な考え方ができるようになった、と考えるべきでしょうか。


 彼には、店と従業員の管理をやらせることにしました。

正直、パワフルな主婦の皆様の相手は大変でしょうが、まあ頑張ってもらうしかありません。


「なに言ってるの。ここまでやったんだから、後は結果を見るだけでしょ。看板も出したんだし、無反応ってことはないわよ、無反応ってことは」


 表の通りから、こちらに人を呼び込むために出した宣伝の看板。

あれは、塔の魔女ジョシュアに描いてもらったものです。

前の世界には、こういう風に商品を宣伝するものがあったの、と説明すると、彼女はいたく感心して、ささっとそれを描いてくれたのでした。


 その出来は驚くほど良く、人の目を引くこと間違いなし。

というか、ジョシュアの描いた絵はどれも精緻かつ美麗で、後世で評価されて凄く高くなったりするんじゃないか、なんて思うんですが。


 そんな彼女の絵を、宣伝につかったりしてよかったかしら。

勿体ないかもしれないけど、でも凄く助かります。


「さあ、じゃあお店を開けるわね。みんな、張り切っていきましょう!」


 そう言い、私はお店の出入り口を塞いでいた、戸締まりの板を外していきます。

この新店舗は、入りやすいように、入り口を全面開放型にしたのでした。


 そして、開いた入り口から外を覗いてみると……なんと。

驚くべきことに、そこには山のような大行列が続いていたのです!


「うそ、これ、全部うちの客……!?」


 びっくりして、驚きの声を上げてしまう私。

開店はまだか、とこちらを見ている人、人、人……。

お父様の部下の皆様にお願いして、口コミで開店情報を広げてもらったりはしておりましたが、それだけでこんなに来るわけがなし。


 と、いうことは。


(看板の効果だわ……! うそ、ここまで凄いなんて!)


 日本の皆様は、もう宣伝というものに慣れきっていて、宣伝看板なんか見向きもしなくなっておりました。

けれども、こちらの世界でそれを行なうと、こんなに効果があるものなのですね!


 最新メシ、とか適当なことを書いておいたのに、ピュアッ!

皆様、宣伝に対してピュアすぎますっ!


(とはいえ、これで出すものがまずかったら、悪評も広がっちゃうわ。皆様のお口に合うかしら)


 なんて心配になりつつも、ここまできたらやりきるしかない!と、私は満面の笑顔で元気に叫んだのでした。


「いらっしゃいませ、お客様! これより開店ですわ! 順番にご案内致しますので、どうぞお入りくださいませ!」


 そして、嬉しそうなお客様を一人ずつカウンターへとご案内します。

しかし、そこで不思議そうな顔をしたお客様が、こうおっしゃったのでした。


「ちょっと、あんた。椅子はどこだい」


 ああ、やはりきますよね、その質問。

想定していたことなので、私はにっこり笑って答えます。


「お客様、当店は立ったまま食事をしていただく、立ち食いの店にございますわ」

「なんだと? 馬鹿な! 客を立たせるつもりか? 信じられん!」


 憤慨した様子のお客様。

この国には立ち食いという概念がないので、そうなるのも仕方ありません。

ですが、このままでは怒って帰ってしまいそうですので、私は慌てて続けました。


「お客様、これが最新のお食事スタイルなのですわ。ささっと美味しく食事を済ませ、颯爽と去っていく。これが粋で格好いいのでございます!」

「粋……?」


「はい、粋ですわ!」

「そ、そうか。まあ……そういうことなら」


 と、力技で押し切る私と、それで納得してくれるお客様。

さらに、最新メシとか看板に書いてあった料理をくれ、とおっしゃるので、私は喜んで注文を通します。


 そして、わずか三十秒ほどで出来上がったそれを、お客様の前に提供し。

私は、笑顔でその名を告げたのでした。


「お待たせしました! こちらが、当店の看板メニュー! “うどん”にございます!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ