春と新人と新作スイーツ2
「うわあ、すっごい……! これが、王宮のキッチンなんですねっ!」
メイドキッチンに入るやいなや、クロエちゃんが大きな声でそう言いました。
気持ちはすっごくわかります。
冷蔵庫やコンロ、見たことないものばかりで、料理をする人にとってここは夢のような場所ですから。
「くっ、クロエちゃん、はしゃいじゃいけないわ。私たちはもうメイド見習いなのよっ。キゼンとしてないと駄目なの、キゼンと」
と、それを諫めるサラちゃん。
すると、クロエちゃんは慌てて姿勢を正しました。
「あっ、そ、そうよねっ。しゃ、シャーリィお姉さまみたいに、おしとやかにしてないと! ご、ごめんなさい、お姉さま!」
そんな二人に、にっこりと微笑む私。
……いやあ、この子達、大人だなあ……。私が初めてここに来た時は、はしゃぎまくって冷蔵庫とか片っ端から開けて回ったのに。
これは、逆に私のほうが気をつけないとやばいぞ。
憧れの存在で居続けるって、大変!
なんて肝を冷やしつつ、私は仕込みをやってくれているアンに呼びかけます。
「アン! 喜んで、私達の班に新人が入るわよ! しかも、二人!」
「えっ!? それは本当なの、シャーリィ!? すごく助かるわ、ぜんぜん手が足りないんだもの! どこどこ、新人どこ!?」
手を止めて、大喜びで駆け寄ってくるアン。
そんな彼女に、この子達よ、とクロエちゃんたちを指し示すと……スンッ、と、その顔から表情が消えました。
「……ちょっとシャーリィ、どういうことよ、お子様すぎないっ!?」
そして、私を引っ張っていって耳打ちするアン。
ごめん、アン。そのくだりは、もうやったの。
「それが、あの子達、私達の作ったチョコに憧れて来たらしいの。そう言われたら、邪険にもできないでしょ?」
「うっ……。それは、たしかにそうね……」
と、簡潔に説明すると、渋々ながら納得してくれるアン。
そしてあらためて向き直り、アンを紹介すると、二人の新米メイドは緊張した様子でこう挨拶したのでした。
「くっ、クロエです、よろしくお願いします! アンお姉さま!」
「サラです、精一杯頑張ります! アンお姉さま!」
「お姉さまっ……!?」
衝撃を受けるアン。
ごめん、それももうやったの。
ですが、唯一の後輩な私がお姉さまと呼ばない分、アンにとっても、それは顔がにへらっと歪んでしまうぐらいの出来事だったようです。
その後、二人を各班の皆様に紹介して回ると、その反応は様々でした。
「あらあら、まあ。随分と若い子たちが入ったわね。シャーリィのところは大変だろうけど、励みなさい。……まだ身長が足りないだろうから、踏み台がいるわね。二人分、すぐに用意させるわ」
まずは、さすがに気が利く、一班メイド頭のクリスティーナお姉さま。
「あはは、こりゃまた小さいねえ! その歳でメイドだなんて、大変だ。なにか困ったことがあったら、相談に来な。自分たちだけで抱え込むんじゃないよ」
と、さすが面倒見のいい二班メイド頭のクラーラお姉さま。
「まあ、あなた、あちらのお家のお嬢さんじゃない。もうメイドになったの? 気が早いわねえ。私の班に、あなたの親戚筋に当たる子がいるわ。他の子達にも、よろしくするよう声がけしておくわね。……それにしても、メイド服のサイズがまだあってなくて、可愛いわねっ……!」
さらに、顔が広く根回し上手な三班のエイヴリルお姉さま。
他のお姉さまたちも可愛い可愛いと褒めてくださり、二人はずっと照れっぱなし。
一人前のメイドを目指してやってきたのに、こんな猫可愛がりされてていいのかしら。
なんて二人の顔に書いていますが、なに、心配しなくても、調理が始まれば皆さんの鬼の側面は嫌になるほど見れます。安心してください。
そして、最後。四班のジャクリーンに紹介すると、彼女は腕を組んで二人を見下ろし、厳しい声で言ったのでした。
「……メイドを続けることは、楽じゃないわよ。皆が優しいのは、最初だけ。生き残れるよう、何より技術を磨きなさい」
それだけ言うと、さっと背中を向けてしまうジャクリーン。
その背中に、二人は「あ、ありがとうございます!」と声をかけますが、どこか動揺した様子。
そんなに気にしなくていいのよ。これは、ジャクリーンなりの激励だから。
子供の時からずっと料理を仕込まれたというジャクリーン。
そんな彼女なりに、同じ境遇の二人を見て思うところがあったのでしょう。
まあそんなこんなで挨拶回りも終わり、いよいよ二人に、お仕事に入ってもらうことに。
「さあ、これからは本当にお仕事してもらうから。ちゃんづけもここまで。一人前のおやつメイドになれるよう、一生懸命働いてもらうわよ。いいわね、クロエ、サラ」
と私が先輩ぶって言うと、二人は真面目な顔で答えます。
「はい、お姉さまっ!」
うーん、良い返事!
さて、まずは実力を見せてもらおうと、パン生地をこねてもらったのです、が。
(あらっ……! 二人とも、思ってたよりずっと上手!)
それを見て、思わず驚いてしまいました。
二人のこねる手付きが、きちんと職人していたからです。




