表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍・漫画化しました!】異世界メイドの三ツ星グルメ ~現代ごはん作ったら王宮で大バズリしました~【旧題・美食おぼっちゃまの転生メイド】  作者: モリタ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

113/278

魔女の家のクリスマスパーティ8

「お待たせしました! ささ、まずはチキンからどうぞ!」


 ぐっとよだれを我慢しながら、綺麗にチキンを取り分けた私。

外からだけではなく、内からもよく味付けされたそれを差し出すと、おばあ様は待ってましたとばかりにフォークでざくり。


 そして口に運び、あむあむと噛み締めると、すぐに喜びの声を上げてくれたのでした。


「はあ、こりゃ美味しい! 凄いね、こんな美味しい鳥は初めてだ! 味付けがすごくいいねえ、うん、実にいい!」


 やった、大成功!

こちらのローストチキンは、マルセルさんと一緒に作ったものでございます。


 調理技術に関してはまだまだ遠く及ばず、教えてもらうことが沢山なのですが、ソースは私が作ったグレイビーソースを使っております。

私も我慢できず食べてみると、皮はぱりっとしていて、お肉はホロホロで実に美味しい!


 それに甘く作ったソースやハーブ、お野菜たちの味が素敵に混じり合い、もうなんていうか……。


「クリスマス、サイコー!」


 なんて喜びの声を上げてしまう私。

その間も、様子を見てお料理をとりわけ、おばあ様の前にどんどん並べていきます。

もちろん、自分もたっぷり料理を堪能しながら!


「はあ、こりゃ美味しい。どれもこれも美味しい。この国の味付けとはぜんぜん違うけど、どれもこれも不思議なほど美味しい。これが違う世界の味かい、まるで異世界に旅行をしてる気分だよ!」


 お料理に次から次へと手を付けてくださり、大絶賛のおばあ様。

良かった、どれもお口にあってるようです!

おぼっちゃまは変わった味でも認めてくださるけど、高齢の方にはどうかしら、と少し不安だったのですが。


 おばあ様は聞きしに優る健啖家(よく食べる人のことです)で、作りすぎたかな、と思った料理を、それはもう豪快に召し上がってくださいました。

ああ、気持ちいい……作った料理がどんどん減っていくのって、やっぱり最高に気持ちいい!


 とくにおばあ様はシチューが気に入ってくださったようで、パンを浸してぺろりと平らげ、おかわりまでしてくださいました。

そして、テーブルの上の皿をほとんど空にして、おばあ様はふうと椅子にもたれかかり、満足気におっしゃったのでした。


「はあ、美味しかった。こんなに素敵な料理を楽しめるとは、長生きはしてみるもんだねえ。予想以上だった。シャーリィ、あんたはたいしたもんだ。ありがとよ」

「うふふ、ありがとうございます。でも、まだデザートが残っておりますわよ」


 そう言って、お楽しみのクリスマスケーキを切り分ける私。

今回は、ごくシンプルなイチゴのショートケーキです。

包丁ですっと切り分けると、ふかふかスポンジとクリームに、真っ赤なイチゴの素敵な断面が現れました。

 

「ふわあっ……美味しそー!」


 自分で作ったものなのに、自分で感動する私。

スポンジ、クリーム、イチゴ。スポンジ、クリーム、イチゴ。

順番に並んでいるその姿は、まさに美味しそうの暴力です!


 ……ちなみにですが。ショートケーキというものは、「私、洋菓子です! ヨーロッパ生まれですのよ!」みたいな顔してますが、ほぼ日本のオリジナルケーキだそうです。


 つまり、日本料理の一種と言っても過言ではないのです!

……過言かも。


「はあ、これも美味しいねえ……! あんなに食べた後なのに、もっと食べたくなる。クリームが美味しいだけじゃなくて、生地が軽くてしっとりしてて最高だ! おやつの腕は、料理以上じゃないかい。たいしたもんだ!」


 なんて、嬉しそうにケーキを食べながらお褒めの言葉をくださるおばあ様。

ありがとうございます! と答え、ニコニコ笑顔でケーキを頬張る私。

ですが、そんな時、おばあ様がこんなことをおっしゃったのです。


「あるもので前世の料理を再現するなんて、なかなかできることじゃない。……だからね、シャーリィ。前世の知識で料理をつくることを、ズルだなんて思わなくていいんだよ」

「っ……!」


 いきなりそんなことを言われ、ケーキを吹き出しそうになる私。

えっ、私がいまだにちょっとそのことを気にしてるって、読まれてた!?

おばあ様、何でもお見通しすぎる……!


 慌てて視線を向けると、おばあ様はフォークを置いて、真面目な顔で続けました。


「まあ、あんたがそれほど、料理やそれを作った人に敬意を持っているってことだろうけどね。そりゃお門違いってもんさ。料理ってのは、誰かが作ったものをみんなが真似していくもの。あんたは、ただその元が前世ってだけさ」

「……はい」


 それは本当にそうです。

この世界の料理だって、ただ火で焼いていたものから、ちょっとずつ皆が工夫を加え、それを受け継いできたものでしょう。


「世に美味しいものが増えて、怒るやつなんていないよ。私だって、今こうして喜んでる。だから、あんたは自由に、気兼ねなく出し続けな。そうすりゃ……」


 そうして、いっひっひ、と笑って、おばあ様は続けたのでした。


「いつか、あんたの料理を待っている、別の誰かに届くはずだからねえ」


◆ ◆ ◆


「うわあー、いいお湯ー!」


 湯船にザブンと飛び込んで、私は喜びの声を上げました。

こちらは、おばあ様のお家の、その裏にある手作り露天風呂。

料理の片付けがすむと、おばあ様がお風呂を勧めてくださり、お言葉に甘えて入らせてもらうことにしたのでした。


「すっごい景色! この景色を独り占めできるなんて、贅沢だわっ!」


 石造りのお風呂から見上げると、空に冬の星がこれでもかと輝きを放っています。

見回せば銀世界、そして冬の木々たち。


 そんな中で入るお風呂は、まるで温泉旅館に来たようで、感動してしまいます。

入る前に裸になった時は凍えるかと思いましたが、それが今では逆に湯船の気持ちよさを増幅してくれていました。


「はあ、美味しいもの食べて、楽しくお話して、お風呂まで楽しんで。お役目で来てるのに、こんなに楽しんでいいのかしら」


 これじゃ、一人で温泉旅館に遊びに来たようです。

お城のみんなは舞踏会で大忙しだろうに、なんだか申し訳ない気分。


「はあ……。気持ちいい……。溶けちゃいそう。……今頃、お城は盛り上がってるところかしら」


 湯船をじっくり楽しみながら、王宮に思いを馳せます。

おぼっちゃまは、きっと挨拶ばかりで辟易してらっしゃるところでしょう。

アンは、うまくやってくれてるかしら。あの子にとっても顔を売るチャンスだし、もしかして素敵な方に声をかけられてたりして。


 メイドのみんなに任せた料理は、好評かしら。

張り切っていたマルセルさんたちも、うまくいってると良いけど。


 それに、アガタとジョシュア。

二人は、私が出ないなら自分も舞踏会にはいかないと言ってたけど、どうなったでしょう。


 それならばと、料理とクリスマスケーキが届くように手配したけど、食べてくれたかしら。


「っと、いけないいけない。心配ばっかりしてちゃいけないわ」


 たった一日離れただけで、こんなにあれこれ気になるとは。

どうやら王宮は、もうすっかり私の居場所になっていたみたいです。


「ふう……」


 そこで、湯船に深く浸かり、先程のことを思い出します。

気にする必要はない、とおばあ様に言われて、なんだか長い間胸につかえていたものが取れたような気分です。


 そうだ、世界に美味しいものが増えて怒る人なんていないんだ。

むしろ、私が前の世界の料理を広めないと、そこで折角の料理が途切れてしまう!


 尊敬すればこそ、私の知る全てを、この世界に刻み込まないといけないんだ!


「うん、それがこれからの私の使命だわ。よーし、がんばるぞー!」


 湯船から立ち上がり、ぐっと右手を突き上げる私。

やることは変わりませんが、気持ちはぜんぜん違います。

もう二度と、私はこのことで悩んだりはしないでしょう。


 決意に燃える私。

ですが、それは明日から。


 今は、この時間を楽しもう。

そう考え、湯船にざぶんと身を委ね。

一生忘れないよう、私はこの素敵な風景を心に刻んだのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ