魔女の家のクリスマスパーティ5
友達のジョシュアを導いてくださってありがとうございます、とお礼を申し上げる私。
すると、魔女様は真面目な顔でそれを聞いてくださいましたが、やがてにやりと微笑んで、こうおっしゃったのです。
「そんなことを言いに、冬の日に、こんなババアのところまで来たってのかい。真面目な子だねえ。他のメイドどもは、どいつもこいつも嫌がるってのにさ」
「えっ!」
やだ、この方、メイドの皆がお役目を嫌がってるのに気づいてた!
どう取り繕うかと私がわたわたしていると、大魔女様はひらひらと手を振ってみせました。
「ああ、いいっていいって。わかってるよ、そんなこと。そりゃ若い子はババアの世話より、お城で舞踏会に出たいよねえ。そりゃしょうがない。だけど、こっちも嫌々来られるのもシャクなんでね。ちょいといたずらぐらいは、させてもらってたけどね」
そして、イッヒッヒと笑い声を上げる大魔女様。
ああ、そういうことだったんだ……。
だから、お姉さまたちは毎年毎年、心臓が止まるようなドッキリを仕掛けられてたのね……。
聞いただけでも、木の上から大量の虫(偽物)が降ってきたり、大魔女様が血まみれで倒れていたり、襲いかかるようなポーズでクマの剥製が置かれていたり。
それはもう、年々過激になっていったそうですから。
この方も、なかなかいい性格をしてます。
たぶん、途中から純粋に驚かすのが楽しくなったんでしょう。
そしてひとしきり笑い、私にもう一度座るよう促してから、大魔女様は続けました。
「そうかいそうかい、どうやらあの子は、うまくやってるようだね。無念が染み付いた本と、才能が溢れすぎて、そのままじゃ死ぬしかなかった小娘。いいものどうしを“結んで”あげられたようだね」
「……結んで、あげた……?」
どういう意味でしょう。
不思議な言い回しに困惑していると、大魔女様がこう付け加えてくださいました。
「なに、大した話じゃないさ。魔女だからね、ちょいと不思議な力がある。私は、縁があるのにすれ違ってるものどうしを結びつける、“結びの魔女”なのさ。あんたの大事なウィリアム王子の父親と、その母親を引き合わせたのも私だよ」
「…………えええええーーーー!?」
大魔女様の前だからお上品に、と考えていた私の理性は、その一言で吹き飛んでしまいました。
おぼっちゃまの両親……つまり、王様と、亡き王妃様の間を取り持ったのが、この方!?
「どこが大した話じゃないんですか!? めちゃくちゃすごい話じゃないですか!」
「イッヒッヒ、いちいち反応が気持ちいいねえ。……国王のあの子は、長い間子宝に恵まれず、前の王妃とも死に別れちまってねえ。だから、子供ができるよう、そして生涯の大事な相手ができるよう結んであげたのさ」
なんと……なんと!
つまりそれって、ウィリアム様が今この世にいらっしゃるのも、この方のおかげってことじゃないですか!
メイド長は、大魔女様を「王宮にとって大恩ある方」とおっしゃっていましたが、こういうことだったんだ!
まさに、“大魔女様”だ、この方!
「なっ、なんとお礼を申し上げたら良いか……! ありがとうございます、ありがとうございます!」
「イッヒッヒ、やめなやめな。こそばゆいよ。……それにね、結んだからっていいことばっかりなわけじゃないしねえ」
いいことばっかりじゃない……それは多分、王妃様がお亡くなりになり、王様も病に倒れたことをおっしゃってるのでしょう。
なんと言えばわからず、私が困った顔をしていると、大魔女様が話をかえようとこう切り出してくださいました。
「まあ、それはいいさ。それよりあんたのことだ。あんた、聞きたいことがあるんじゃないのかい」
「あっ、そうですね! えと……なぜか、私のことをご存知だったようですが、どこまで知ってらっしゃるのですか? その……主に、前世還り、のあたりなんですが」
恐る恐る尋ねる私。
先程は、驚いている私をよそに、大魔女様が「詳しい話は家でしてやるよ」と歩きだしてしまい、私はたくさんの疑問を抱えたまま、後をおっかけることになったのでした。
私のことを知ってるのは、もしかしてその結びとやらの力なのでしょうか。
緊張してお返事を待っていると、大魔女様はズズッとハーブティーをすすった後、こうおっしゃったのでした。
「大したことは知りゃしないよ。知ってるのは、あんたが今日私に会いに来るということと、とっても食いしん坊だってこと。後は、そう……“前世還り”ってことだけかねえ」
「そう、それです。その、“前世還り”! それって、どういう意味なんでしょう?」
ドキドキしながら、慎重に尋ねます。
慌てて下手なことを喋り、また失敗するのはごめんです。
探りを入れるようで気が引けますが、ここはこちらのことは最小限に、相手のお話だけを聞き出したい。
すると、大魔女様はイヒヒと笑い、こうおっしゃったのでした。
「そのまんまの意味だよ。時々ねえ、いるんだよ。あんたみたいなのがね。……思い出しちまったんだろう? 前に別の場所で生きていた、自分の記憶を、さ」
「っ……!」
もう、間違いありません。
この方……私が、前世の記憶を持ってることを知ってる!
凄いっ! 大魔女ともなると、そんなことまでわかっちゃうんだ!
「はっ、はいっ! そこまではっきりご存知ならば、ぶっちゃけます! 私、実は前世で日本ってところに住んでいてっ……!」
そのまま立ち上がり、タガが外れたように前世の話を始める話。
すでにジョシュアにも話したことがありますが、今回は事情が違います。
だって、今回は相手がそれを先に知っていたんですから!
何一つ隠す必要はなく、思うままに、気の済むまで前世の話をする私。
大魔女様はそんな私の話をウンウンと頷きながら、真面目な顔で聞いてくれたのでした。
「……と、こういうことで。私は、今も前世の思い出の味を追いかけているのです」
そしてひとしきり話し切った私は、ふう、とため息と共に椅子に座ります。
気持ちよかった……事情を知ってくれている人に、あらいざらい話すのは。
そうして私が放心していると、大魔女様が笑みを浮かべておっしゃいました。
「ずいぶんと話したねえ。私にも、興味深い話だったよ。日本、ねえ。そんな世界があるんだねえ。行ってみたいねえ」
「……大魔女様は、日本のことまで知っていたわけではないのですね?」
「ああ、そうさ。私が知ってるのは、今日、この時間があるということだけ。今あんたが私に話してくれたから、私はそれを知っていたのさ」
「えっ……?」
あらかじめ知っていたのに、今、私が話したから知っていた……?
どういう意味でしょう。さっぱりです!




