魔女の家のクリスマスパーティ4
「ふん。もてなすというのなら、ちょっとは驚いて見せたらどうだい。この生首を作るのに、私がどれほどかけたと思ってるのかね」
紐を解き、生首を回収しながらブツクサ言う大魔女様。
蝋細工を作るには、まず精巧な型を作らないといけないとか聞いたことがあります。
それを、今日やってくるメイドを脅かすためだけに作るには、あまりにコストが重い。
お暇なのか、どうしても脅かしたかったのかは不明ですが、私は困った顔で言いました。
「わざと驚いたほうが良かったですか?」
「馬鹿言うんじゃないよ。そういうのが一番さめるんだ。まったく、あんたがこんなつまんない子だとは思わなかったよ」
生首を小脇のバッグにしまった大魔女様。
そして、改めてこちらを向き直り……彼女は、信じられないことを口にしたのでした。
「ええ……前世還りの、シャーリィ」
瞬間。
どくん、と私の心臓が跳ねました。
(えっ……! 今、なんて……? 前世還り……前世還り、って言った!?)
えっ、この方……もしかして、私が前世の記憶を持ってることを知ってる!?
しかも、私の名前まで……。
うそ、私、まだ名乗ってないよね!?
驚きのあまり、目を見開いてなんにも言えなくなる私。
そんな私の顔を見ながら、大魔女様は嬉しそうに笑ったのでした。
「イッヒッヒ。どうやら、やっと驚いてくれたようだね?」
「え、え、えとっ……! ど、どうしてっ……」
「どうしてって、そりゃ知ってたからさ。私は、あんたが今日来ることがわかってたんだよ」
そして、大魔女様はその深い瞳でじっと私を見つめ、親しみの籠もった声でこうおっしゃったのです。
「ようこそ、シャーリィ。あんたが来るのを、ずっと前から楽しみにしていたよ」
◆ ◆ ◆
「うわあっ、すごい! いかにもな家だわ!」
大魔女様に連れられてやってきたそこを見たとたん、私は驚きの声をあげてしまいました。
なにしろ森の奥にぽつんと建っていたのは、童話に出てくる魔女の家そのものだったのですから!
三角な木の屋根に、汚れた白壁。
長いレンガの煙突に、絡まるツタ。
古ぼけてて、怪しくて……なんていうかもう、完璧です!
「イッヒッヒ。そんなに珍しいかね、こんなオンボロ小屋が。まあ、寒いからとっととお入り」
うわーうわーと物珍しげに見ていると、大魔女様がそう言って中へと招いてくださいました。
ギギーっと不気味な音をたてるドアをくぐって中に入ると、そこはまたもや、いかにもなお部屋。
異様に大きな釜に、古ぼけた家具、謎の材料が入ったたくさんの小瓶に、山積みの本。
これぞ、魔女の家!という雰囲気を目指したかのような室内に、いやが上にもテンションが上ります。
「うわあ、すごい! 雰囲気出てるぅ!」
「いちいち盛り上がる子だねえ。いいから、楽にしな。寒いだろう、すぐに火を起こしてやる」
大魔女様がそう言ってくださったので、私は荷物を丁寧に机の上に並べ、失礼しますと一言断って上着を脱ぎました。
その下は、もちろんメイド服。メイドとして出張ご奉仕に来たのですから、当然です。
やがて暖炉の薪に火が付き、椅子に腰掛けた私は、暖まってきた部屋でふうと安堵のため息ひとつ。
大荷物を抱えての道中。ほんの一時間足らずでしたが、寒さと重さでなかなかの重労働でございました。
「ほら、飲みな」
そして私が、料理たちが大丈夫だったかチェックしていると、大魔女様がそう言って温かい飲み物を出してくださいました。
ありがとうございます、とお礼を言ってその琥珀色の液体を飲んでみると……これが、甘くて実に美味しい!
「うわあ、甘い! とっても美味しいハーブティーですね!」
「イッヒッヒ、そうだろうそうだろう。私が庭で育てた、特製の葉っぱだよ。自信作さ」
なんと、こんな美味しいハーブティーが手作りとは!
大魔女様、本当に多芸だなあ……。
まあ、時間を持て余してるのかもしれませんが。
「本当に美味しい! ありがとうございます! ……それで、なんですが」
ハーブティーを楽しんだ後、一息入れて、私はそう切り出します。
そして、そっと椅子から立ち上がると、大魔女様へと、深々と頭を下げたのでした。
「今日は、お仕事と同時に、一個人としてお礼にまいりました。私の友達、宮廷魔女のジョシュアが、以前、たいそうお世話になったと聞き及んでおります。……彼女に道を示してくださって、本当にありがとうございました」
そう。今日、無理を言ってこちらに来させていただいたのは、それが目的。
気になることもありますが、まずは感謝を伝えねばなりません。
大魔女様は、以前、ジョシュアの人生に多大なる影響を与えてくださったとか。
つまり、今私が冷蔵庫やコンロを使えているのは、間接的にこの方のおかげ。
そして、もちろん大事な友達のジョシュアと出会えたこともです。
そんな偉大な方に、私はどうしてもお礼を言いたかったのでした。




