魔女の家のクリスマスパーティ3
「うわああああー、雪だー!」
そして、クリスマス当日。
いえ、この世界にクリスマスはないのですが、とにかく当日。
王宮から馬車で、ゴトゴト揺られること半日。
森の入口で降ろされた私は、そこに広がる一面の銀世界を見て、思わず叫んでしまったのでした。
エルドリアの冬はまあまあ冷え込みますが、雪はけっこう珍しい。
街には雪などどこにも見当たらなかったのですが、山に近いこのあたりでは昨夜いくらか降ったようです。
本当は、雪に飛び込んだりしてはしゃぎたいところですが、今の私は大量の荷物を抱えています。
もちろんすべて大魔女様へのおもてなしの品。……はりきって作りすぎました。
それに、寒さ対策にこれでもかと着込んでいるので、残念ながらそんな余裕はないです。
「悪いな、お嬢ちゃん……。これ以上入ってくのは怖くてな。勝手に森に入ると、大魔女様に呪われるとか言われてるもんでなあ」
とは、私をここまで送ってくれた御者さんのお言葉。
大魔女様は尊敬されるとともに、不思議な力があるとかで怖がる人も多いそうです。
だから一人で森の奥に住んでいるのかしら、などと思いつつ、私は笑顔で答えました。
「大丈夫です、ここからの道はちゃんと教えてもらってるので! じゃあ明日のお昼すぎに、お迎えお願いしますね!」
「ああ、もちろん。……けどあんた、気をつけてな。大魔女様もだけど、こんなところで野生動物に襲われたらひとたまりもないぞ。そらっ!」
最後にすっっっごい物騒な事を言い、馬にムチをいれて行ってしまう御者さん。
……え、その情報いりました?
この森、怖い動物とか出るんです?
「やばい、その事は考えてなかった……。こんな姿で襲われたら、たしかにひとたまりもないわ……」
雪原で一人立ち尽くし、呆然と呟く私。
今の私は、まさにごちそうフル武装状態。
これでは赤ずきんの狼だって、たまらなくなって途中で襲ってくることでしょう。
ですがそこで私はブルブルと首を振って嫌な想像を振り払い、とっとと大魔女様の家に行ってしまおうと、歩きだしたのでした。
「この道をまっすぐ、ただそれだけ。三十分ほどで、大魔女様のお家。大丈夫、いける、いける」
森の中に続いている道を、大股で進む私。
雪で道がわかりづらくなっているのが難点ですが、それほど深い森でもないようですし、日が暮れるまでには絶対にたどり着けるでしょう。
……なんて思っていたのですが。
進むにつれて森は徐々に薄暗くなっていき、なんだか不気味な雰囲気。
あれ、これ迷ったらまずいな。うん、まずいぞ、なんて思いつつも、どうにか道を進んでいく私。
ですが、その時。
ガサッ、となにかの物音がして。
──上から、“それ”が飛び出してきたのでした。
「えっ……」
人の、頭部ほどある、それ。
いいえ……それは、まさしく人の頭部でした。
空中に浮いた、血まみれの、男性の頭部。
それが、うらめしげな表情でこっちを睨みつけていて……私は、思わず叫んでしまったのでした。
「うわああああああああああああーーー!!」
そして、そのまま生首のほうにダッシュ!
それを近くでマジマジと見て、感嘆の声を上げたのでした。
「うわああっ、これ、蝋細工だ! すっごい、リアル! 血もしたたってて、芸が細かーい! うわあ、すごい技術!」
そう、それは蝋細工の生首でございました。
それにカツラを被せ、血糊がかけてあるのです。
すごい、前世の遊園地にあったお化け屋敷より出来が良い!!
「空中で止まって、吊るしてる紐が見えなかったら本物だと思ったかも! うわーすごい!」
なんて、前世ぶりのホラー系創作物にテンションがぶち上がる私。
いえ、別にホラー系が好きなわけではないんですがが、ここまでする情熱には敬意を感じます。
そして、私がそんな感じで盛り上がっていると。
木の陰から、渋い藍色の服を着た小柄な人影が出てきて、うんざりした声でこう言ったのでした。
「なんだい、なんだい。驚くどころか、喜んでるじゃないか。つまらないねえ、驚かせがいのない子だねえ! まったく!」
それは、杖をついた、シワの寄ったおばあさんでした。
腰はわずかに曲がり、体つきもとっても細い。
顔もかなりの高齢に見えますが、体にはまだまだパワーを感じますし、その目は、まるで少女のようにキラキラ輝いておりました。
(不思議な方……百歳にも、もっとずっと若くにも見えるわ)
この世界よりも、前世日本での御長寿おばあさんを連想してしまいます。
ですが、今はそれどころではありません。
私はにっこり微笑むと、スカートの裾をつまんでご挨拶したのでした。
「はじめまして、大魔女様。私は王宮の使いでございます。本日は、僭越ながらおもてなしに参りました」
そう、この事態は、予想の範疇。
私がホラーを怖がらないだけではなく、お姉さまたちに事前に忠告を受けていたからなのでした。
すなわち……森の大魔女様は、とっても意地悪なお方。
森に入れば、すぐにあの手この手で脅かしてくるぞ、と。




