魔女の家のクリスマスパーティ2
お役目とはなんでしょうか、と声を上げたとたん、一斉に集まってくる視線。
まるで、昔見た映画で、愚かにも恐竜の中に飛び出してしまった被害者の気分ですが、やってしまったものは仕方ありません。
メイド長は、じっと私を見つめると、こうおっしゃったのでした。
「そういえば、おまえは初めてでしたね。我が王宮では、舞踏会が開催されるのと同じ日に、メイドがあるお方のお家を訪ね、豪勢な食事でもてなすよう決まっているのです」
そのお方には以前王様がたいそうお世話になっていて、その御礼なのです、と続けるメイド長。
なんと、そんな凄い人がいたとは!
そして、お姉さまたちが嫌がっていた理由もわかりました。
つまり、それに選ばれてしまったら、もれなく舞踏会には出れないということ。
言ってみれば、逆シンデレラみたいなものというわけです。
なるほどなーと思いながら、私がのほほんと「それはどちらの偉い方なのですか?」と尋ねると、メイド長の口から、とんでもない真実が飛んできました。
「名前は誰も知りません。森に住んでいる、偉大なる魔女。森の大魔女様、とみんな呼んでいます」
「……森の大魔女様!?」
なんと、なんとなんと!
ここで、ここにきて森の大魔女様ですか!
それは、私が何度も耳にしてきていたお名前でした。
特に印象的なのが、ジョシュアの話。
彼女は、森の大魔女様が与えてくれた書物を通じて発明に目覚めたと。
つまり……今、このメイドキッチンに、コンロや冷蔵庫があるのは大魔女様のおかげなのです!
その大魔女様をもてなすというのなら、迷う必要はありません。
私は再びピンと手をあげて、元気にこう言ったのでした。
「メイド長! 差し出がましいですが、よろしければそのお役目、この私が務めさせていただきます!」
お姉さまたちはそれをやりたくないご様子。
なら、ここはなんの問題もなく私の出番でしょう!
大魔女様には、ぜひ一度、ご挨拶しておきたいですし!
……と、思ったのですが。
メイド長は、すっと目を細めて、こうおっしゃったのでした。
「お前はダメです、シャーリィ」
「ええっ!? なんでですか!?」
私じゃ経験不足だから?
それとも、そそっかしいからでしょうか。
意味がわからず私が半泣きになっていると、メイド長はやれやれと首を振ります。
「あなた、自分の立場がわかっていないのですか。あなたは今や王宮内の有名人。この舞踏会に、メイドが作る珍しい料理が出ると、貴き方々は期待しているのです。その当事者であるあなたがいなくて、どうするのですか」
……ああ、なるほど。
そういうことですか。
なーんだ、それなら問題なし。
私はそこでアンをぐいっと引っ張り出して、こう言ったのでした。
「その点は問題ありませんわ! ご挨拶などは、アンがおりますから! 料理も、ちゃんと事前に仕込みをすれば、アンが完璧に仕上げてくれます! マルセルさんにも手伝いを頼めますし!」
「ええええええっ!?」
寝耳に水というか、あんた急になに言ってんのって顔で驚くアン。
そしてそのまま、私にすがりつくようにして言いました。
「バカ言わないで、あんたがいないと無理よ、無理! 第一、あんたにとっても、これってすっごいチャンスじゃない! 今後のことも考えて、しっかり顔を売っときなさいよ、ねえっ!」
必死な様子のアン。
ですが、私はにっこり笑って応えたのでした。
「でも、大魔女様をおもてなしするのも同じぐらい大事でしょ? 私、やるわ」
「……あっ、駄目だわ。こうなったあんたは、てこでも動かないわ。この数ヶ月で、嫌になるほど理解したわ。メイド長、諦めましょう」
と、死んだ目で言うアン。
すると、メイド長は深い溜め息をついて、おっしゃったのでした。
「どうしても、やるというのですね? シャーリィ」
「はい、メイド長! その大役、どうぞ私めに!」
「わかりました。では、仕方ありません。メイド全員で、五班のフォローを。いいですね」
その言葉に、「はい、メイド長!」と元気に返事をしてくださるお姉さまたち。
そこにはどこか、助かったというニュアンスがありました。
(うんうん、お姉さまたちには舞踏会を楽しんでもらえて、私は常々お会いしたいと思っていた大魔女様とお会いできる。完璧ねっ)
なんて、一人で勝手に喜んでいる私。
さあ、大魔女様はどのような方なのでしょう。
今から、ワクワクです。
それに、クリスマスに森の魔女様とパーティだなんて。
なんだか、とっても素敵じゃありませんか?




