特別な夜のハンバーグセット6
「みんな、おつかれさま! 本当にありがとう!」
おぼっちゃまをお見送りし、手伝ってくれたみんなと集まって、私は笑顔で感謝を伝えます。
本当に、素晴らしい時間でした。見ているだけで、お腹いっぱいになるような。
「筋違いかもしれぬが、私からも礼を言わせていただく。ありがとう」
そう言って、頭を下げるマルセルさん。
本当に、できた人です。
そんな彼に、アガタたちは穏やかな微笑みを返しました。
しかし、それと違うのが弟のローマンさん。
「ちぇっ、なんだいお兄ちゃん、人が悪いぜ! それならそうと言ってくれりゃいいのに、これじゃワシだけ悪者だ!」
と、バツの悪そうな顔で文句を言う始末。
本当に、この人は悪い意味でブレないなあ……。
ですが、そこでその背中を、アンがバシンとひっぱたきました。
「痛っ!?」
「それはアンタが、しょーもない悪だくみばっかりするからでしょっ! 人は関係ないの、人は! いい加減お兄さんを見習って心を入れ替えなさい、馬鹿ッ!」
腰に手を当てて、怒り顔のアン。
だいぶ年上のローマンさん相手に、すごい剣幕です。
ですが、さすがのローマンさんも、これにはシュンとして反省してみせました。
「ううっ、わかっとるわい、ワシが悪かった……。お兄ちゃんがそんなに苦しんでることも気づけずにいたとは、ワシは自分が情けない。それにワシだって、ウィリアム様にあんな風に笑ってもらいたい! ズルはやめて、まっとうに修行をやり直すわい……」
その姿があまりにも哀れっぽかったので、一同の間からわっと笑い声が上がりました。
なんだか、わだかまりのない穏やかな空気が広がります。
そして、そんな中、マルセルさんが私にそっと囁きました。
「……ところで、シャーリィ殿。その、お願いがあるんだが……よければワシに、あのハンバーグとかいう料理を教えてくれんか? エビフライとかいうやつもだ。見ていて、その。……味が、気になって仕方なくてな」
えっ、と驚いて見てみると、マルセルさんは赤い顔をしてそっぽを向いていました。
それがなんだか可愛らしくて、私はフフッと笑ってしまいます。
そうですよね、マルセルさん、こんなに立派なお腹をしてるんですもの。
あなただって、間違いなく食いしん坊ですよねっ!
「いいですとも。では、どうでしょうっ。ハンバーグセットの材料、多めに用意したのでまだ残っております。それで、これからみんなで打ち上げというのはっ!」
私がそう言うと、皆がわっと歓声を上げました。
「いいねえ、成功の後の食事というのも悪くないものだ! なんなら、ボクが楽器の一つも演奏しようっ」
「ぼ、僕も行ってもいいのかな?」
「いいに決まってんでしょ、あんたがあの鉄板作ったんだし、さっきも頑張ってくるくる回してたじゃない! 胸を張りなさい、胸を!」
「ワシもいくぞっ! あの奇妙な料理の数々、ぜひ味と製法を知りたい!」
「では、私が秘蔵のワインをお持ちしましょう。特別な夜には、特別な酒が必要なものでございますから」
口々に騒ぎながら、とっても嬉しそうなみんな。
そう、もてなしの成功は、もてなした方も幸せにしてくれるのです。
こうして私たちは、その夜、わいわいと騒がしくも素敵な時間を過ごしたのでした。
◆ ◆ ◆
……そして、そんなことがあって、瞬く間に時間は流れ。
やがて、王宮は年末を迎えようとしていました。
エルドリアでは、年末を盛大に祝うのが習わし。
街は綺麗に飾り立てられ、人々はどこか浮かれた様子で過ごしています。
王宮にだっていつにも増して人が出入りし、なんともはや賑やかムード。
そんな中、メイドのみんなも、なんだかソワソワ。
とある事が楽しみで仕方ない様子です。
ですが……そんな時、ふと誰かが呟いた言葉で、ビクリとその身を震わせることになったのでした。
「──今年の“お役目”は、誰になるのかしらね──」
さて、皆様が恐れる、“お役目”とはなんなのか。
気になるところではありますが……それは、次のお話で。




