特別な夜のハンバーグセット3
「おいっしいっ……。なんと、なんと……なんと、美味しいのだっ! ああっ、エビフライっ……エビフライ!」
そのまま、取り憑かれたようにエビフライを口に運び続けるおぼっちゃま。
ああ、お子様にエビフライ。
それはまさに、猫にまたたびと同じ効果なのでございました。
しかも、今日のタルタルソースは日々研究を重ね、特に気合いを入れた特別製。
なにしろおぼっちゃまが初めて食べるタルタルソースなのです。
ならば、全力の味でタルタル沼に落とさずしてどうしましょうか!
「たっ、たまらぬ、さくさくの外側と、プリプリの内側……。そして、このソースのなんと美味しいことっ! なんなのだ、これは。究極の食べ物か……!」
おぼっちゃまがエビフライを気に入りすぎて、ちょっと怖い。
ですが、どうやら無事タルタルソースにハマってくれたようです。
ふふ……どうやらおぼっちゃまも、私と同じタルタリスト(異常なほどのタルタルソース好きをそう呼びます)に落ちてくれたようですね。
そして、おぼっちゃまがエビフライを食べきる前に、私はそっと声をかけました。
「おぼっちゃま、タルタルソースと一緒にハンバーグのソースを絡めると、また絶品でございますよ」
「!?」
すると、おぼっちゃまがぎょっとした顔をします。
いいのか?ほんとうに、そんなことしていいのか?
と、そのお顔に書いてあったので、私はニッコリと微笑んで頷きました。
するとおぼっちゃまはドキドキした様子で、タルタルたっぷりのエビフライにハンバーグソースをつけ、パクリ。
そして、天を仰ぎ、本当に幸せそうな笑みを浮かべたのでした。
「ああ、たまらぬ、たまらぬ……! しかも凄いぞ、もう一本ある! 次だ!」
そう言って、次のエビフライにとりかかるおぼっちゃま。
ですが、ナイフを通した途端に違和感に気づいたのか、その動きが止まりました。
「なんと……!? こっちのほうは、エビフライでは、ない!?」
そう、こちら、見た目は完全に同じですが、実はそれは擬態。
開いた断面から見えるのは、細かく刻んだ海老の身がたっぷり入った、トロトロのホワイトソース。
もう一本の正体、それは。
「おぼっちゃま、そちら、エビクリームコロッケにございます!」
「なんと、似ているようで、違う種類であったか! しかし、こちらもなんと美味そうな……どれ!」
そう言って、柔らかなエビクリームコロッケに、またもやタルタルソースをたっぷりかけて、崩れないように用心しながら口に運ぶおぼっちゃま。
カリッ、サクッ、とまたもや気持ち良い音がなって……それからどうなったかなんて、説明はいりませんよね?
人生で初めてエビクリームコロッケを食べたらどうなるかなんて、誰でも知っていることなのですから!
「凄いぞ、凄いっ……シャーリィ、念のため聞いておくが、エビフライもハンバーグも、まだまだあるのだよな!?」
「もちろん、いくらでもございますわ、おぼっちゃま!」
それを聞いて、満面の笑みを浮かべるおぼっちゃま。
続いてまるごとじゃがいもにナイフで果敢に挑みかかり、四等分したところで、ふとこうおっしゃいました。
「これは、皮のまま食べるものなのか?」
「そのままでも、皮は残しても、どちらでもお好きな方で大丈夫ですわ。ですが、私のおすすめは皮のままです!」
するとおぼっちゃまは小さく頷き、じゃがいもを皮のままぱくり。
そして、予想通り、「美味しい!」と声を上げられたのでした。
ええ、ええ、そうでしょうとも。
何気ないじゃがいもも、ハンバーグに添えられていたら大ごちそう。
弱火のオーブンでたっぷり時間をかけて火を通したじゃがいもは、ホクホクとしていてバターととろけ合い、さらにハンバーグソースとの相性もバッチリ。
ハンバーグと交互に食べることで、より美味しさが増す重要な付け合わせたち。
それぞれの味が混ざり合い、高みへと昇ってゆく。
それが鉄板ハンバーグの素敵なところなのございます!
「うむ、このパンも実に良い出来だ。シャーリィは、パンも本当に上手だな」
「ありがとうございます、おぼっちゃま!」
と、かごに入った四角いパンを口にして、お褒めの言葉をくださるおぼっちゃま。
こちら、ディナー用のパンは、今回のディナーのためにたっぷり練習してきたものでした。
どれもおなじに見えるパンも、実はランチやディナーなどで違う物。
ディナーのパンは、濃ゆい夜の食事に合うよう調整が必要なのです。
クリスティーナお姉さまが「手伝いはできなくても、パンの焼き方を教えるぐらいはいいでしょう」と、今回、特別に指導してくださったのでした。
正直、私的にはこのパンだけでも大ごちそうで、外はカリカリ中はふかふか、何もつけなくても幸せな気持ちになれるぐらい、美味しく仕上げられるようになりました。
……本当は、お皿にライスを盛って出したいんですけどね。
私はファミレスのあれが、なんだか特別感があって、大好きだったのです。
(ああ、考えてるとまたお米が食べたく……いや、今は忘れないと。それよりも)
そろそろ頃合い、ここでダメ押しです。
おぼっちゃまの喉が渇くころだろうと思い、ちらりと執事の方に目線で合図。
すると執事の方がゴロゴロとなにかを押してきて、それに気づいたおぼっちゃまが驚きの声を上げました。
「……シャーリィ。なんだこれは? 今度は、何を始めた?」




