特別な夜のハンバーグセット1
「おおっ……! なんだ、噴水が光っておる……シャーリィ、あれはどうやっておるのだ!?」
「うふふ、おぼっちゃま、それは秘密にございます。こういうのは、不思議なままが一番面白いものですので!」
と、にっこり笑顔でごまかす私。
いえ、ほんと仕組みを知ったらがっかりなのです。
なにしろ、これはタイミングを合わせて執事さんに噴水の栓を開けていただき、ジョシュアとアガタが照明を覆っていた布を一斉に外しただけなのですから。
ちなみに、中央のくるくる変わる色は、面ごとに色が違う照明入りガラスを、人力でくるくる回しているだけなのでした。
そちらは、鍛冶屋のアントン様が担当し、頑張ってくださっています。
(おぼっちゃまのため、って言ったらみんな喜んで手伝ってくれたのよね……。本当に良い仲間を持ったわっ)
ちなみにこの噴水イルミネーション、この後さらにジョシュアが改良を重ね、やがて王宮の名物となっていくのですが……それは、また別のお話。
色とりどりに輝く噴水に、目が釘付けのおぼっちゃま。
食事の前の余興としては十分な成果だったようで、この機を逃すまじと私は合図を送りました。
すると、執事の方がクローシュ(レストランとかで料理を覆ってる丸い銀色のアレです)の載ったワゴンを押してきてくれました、が。
そこで異変に気づいたおぼっちゃまが、不思議そうにこうおっしゃいました。
「なんだ、なんの音だ? なにか、パチパチと音がするぞ」
そう、クローシュの中から、パチパチジュワーと音が鳴っているのです。
でもまだまだ、中身は開けてのお楽しみ。
執事の方がおぼっちゃまの前にそれを置き、そして私はニッコリと微笑むと、勢いよくクローシュを持ち上げながら、こう言ったのでした。
「お待たせしましたおぼっちゃま、こちらが今宵のディナーにございます!」
そのとたん、中から一気に湯気が吹き出し、あらわになる音の正体。
それは、一皿の芸術。
遠き日の思い出、子供時代の黄金体験。
「アツアツ鉄板の、ハンバーグセットでございます! 鉄板の方、お熱くなっておりますのでお気をつけくださいませ!」
「おおーっ……!」
そうそれは、アツアツに熱せられた鉄板の上にのった、大きなハンバーグでございました。
鉄板の熱でソースが熱され、気持ちいい焼ける音と共に、飛び出す最高に美味しそうな匂い。
そしてその脇を飾るのは、二本のとびきり大きなエビフライと、皮付きのまんまるじゃがいも。
一皿に、大好きなものがこれでもかとのった一品。
そう、今日のディナーは、ファミレスのハンバーグセットなのでございます!
「なんと不思議な……! パチパチと焼ける音がするぞ! こんな料理、見たことがない! それに……なんといい匂いだ!」
くんくんと鼻を鳴らして、ハンバーグセットから立ち上る湯気を吸ったおぼっちゃまが、恍惚の表情でおっしゃいます。
それを嬉しく見ながら、私は「失礼します」と言い、おぼっちゃまに食事用のエプロンをつけさせてもらいました。
おぼっちゃまの服にソースが飛んでしまっては、一大事ですからね。
ですが、そこでローマンさんが泡を食って叫びます。
「なっ、なんだお前、また酷い料理を出しおって! 一皿に複数の料理を放り込むなど、下品すぎるっ! それに、なんだそのじゃがいも、皮も剥いておらんではないか!」
はい、来ると思っていました、そのご指摘。
なので、返事はとっくに用意済み。
私はにっこり笑って、こう答えたのでした。
「複数の料理を放り込んでいるのではありません。これは、こちらのお肉料理、ハンバーグを中心としたれっきとした一皿。全部合わせて、こういう料理なのですわ」
「なにい!?」
そう、鉄板ハンバーグはその全てが一つの料理。
それぞれが鉄板の上を飾り、味を引き立たせあうもの。
異論は認めません。ええ、決して!
「それに、じゃがいもは、これが一番美味しい食べ方なのです。どうですか、おぼっちゃま。美味しそうでございますよね?」
「うむっ……。なんだかしらんが、物凄く美味しそうに見えるぞっ」
十字に切れ込みが入り、その上でバターがとろけているじゃがいもを見て、ゴクリと喉を鳴らすおぼっちゃま。
そして、ナイフとフォークを取ると、大きな声でおっしゃったのでした。
「もうたまらぬ、余は食べるぞ! まずは、このハンバーグとやらだ!」
そしてハンバーグをナイフでさっくりと切り裂くと、中からはじゅわっと肉汁が。
ゴクリと喉を鳴らし、フォークを突き刺すおぼっちゃま。
ですが、それを見たローマンさんがこうつぶやきました。
「ふ、ふん、だが結局、ハンバーガーに挟まっておった肉を大きくしただけではないか。どこの肉を持ってきたかわからんが、急場で良い肉料理など作れるか……!」
しかしそれをよそに、おぼっちゃまは嬉しそうにハンバーグをぱくり。
そしてしっかり噛み締めた後……やがて、満面の笑みでおっしゃったのでした。
「おおおおっ……美味しい! なんて美味しい肉だ! これほどの肉、そうは口にできんぞ!」
「なあっ!?」




