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異世界転生犬リキマル  作者: アンサングのフレンズ
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「俺は犬だ!」

異世界に獣と人の要素を合わせ持った姿で転生した犬のリキマル。

備わった高い身体能力で野生のサバイバルスローライフを堪能していたら

そこにエルフ達の連合国に国を滅ぼされ、逃れてきた

獣の耳と尻尾を持つ狼の『人獣』の姫と戦士が現れ…。

月の王国 ルナリア

金色の美しい体毛を持った狼のような、獣の耳と尻尾と人身体を持った一族を王とする国であった。

元は狩猟民族なれど牧畜、農耕といった文明を持つ。

平和で強く、美しい国と他の人獣の国々からも称されていた。


だが、その月の王国は一夜にして滅ぶ。


ハイエルフを筆頭とする亜人達の連合軍

『ヒューマ·アライアンス』

に大軍を持って攻め滅ぼされたのだ。

城壁は破られ、武装した多種多様な亜人達が街を従輪する。

親を殺され、泣き叫ぶ獣人の子供をゴブリンと呼ばれる亜人の兵が取り囲む。

まさにゴブリン兵が子供に襲いかかろうとしたその時だった。

放たれた矢がゴブリンを次々と射抜く。

最後の一体になった時、それに物凄い速さで迫る者がいた。

美しい金の髪の毛と尻尾をなびかせ、褐色の肌に豊満ながら引き締まった身体、月の王国の王族の女戦士だ。

女戦士は飛び上がると空中で回し蹴りを放つとゴブリンの頭部に命中、ゴブリンはきりもみ状に回転して吹き飛び、絶命する。

女戦士は睨みつけるように周囲を警戒する。

「大丈夫か?」

すると女戦士は先程の勇猛さとは全く異なる笑顔を子供に向けた。

「…姫様………。」


「立て!立って生き延びて親の仇を討つのだ!お前も誇り高き『月狼の民』であろう!」

女戦士は子供を一喝すると手を差し伸べる。

子供は立ち上がると涙を拭う。

「いいぞ。そなたは立派な月狼の戦士だ。だが、今は戦う時ではない。私が来た方向へ行け。立ち止まるな。いいな?」

「はい!姫様!」

走りゆく子供を見送ると女戦士は

「立派な戦士になるのだぞ…。」

そう呟くと弓を構える。

「こそこそする性分でもあるまい。正々堂々と来い!」

女戦士はそう叫ぶと巨大な、倔強なオークの戦士達が現れた。

「オークか。狡猾で惰弱なハイエルフよりかはまだまともな戦士だ!相手にとって不足無し!」

女戦士はそう啖呵を切る。

その時、女戦士の背後から幾多の矢が飛び交い、オーク達に刺さる。

女戦士が振り向くとそこには武装した月の王国の民や生き残った兵達がいた。

「姫様を守れ!」

槍や斧を構えた月の王国の獣人達がオークの軍団へ勇敢に向っていく。

「姫様、ここは我々が。姫様はお下がりくだされ。」

大太刀を背負った黒と白が混ざる毛並みの、初老といった雰囲気であるが屈強な男の狼の獣人が女戦士に語りかける。

「ガルドか!よくぞ無事だった!」

女戦士は歓喜の声を上げるも

「だが、私一人逃げる訳に行かぬ!私も共に…」

その時だった。ガルドと呼ばれた初老の戦士の拳が女戦士の腹部に入る。

「…な……ガルド…?!」

膝をつきしゃがみ込む女戦士。

「戦士としては悪くない意気込みですが、この老骨の不意打ちを躱せないのであれば皆の足でまといですな。」

老戦士ガルドは女戦士を抱きかかえると

「すまぬな…皆。某も直ぐに行く。」

突撃する戦士の一人がガルドに声をかける。

「ガルド様、姫様を…ルナ様を頼みますぞ!」

そう言うと雄叫びと共に戦士はオークの軍団に向って行く。

それを見届ける間もなくガルドは初老とは思えない速さで城へと駆け込んだ。

城は既に敵に囲まれていたが、王国の姫、ルナを担ぎながらガルドはそれらを斬り伏せ、突き進む。

月の王国でも屈指の戦士である。

「王よ、このガルド、姫様を連れ戻りましたぞ!」

そこは『王の間』と呼ばれる場所であるが

既に戦場へと成り果てていた。

そこには威厳のある男女が二人、娘と同じ金の毛並みと褐色の肌を持つ刀剣を構えた王と弓を携えた銀色の毛並みの王妃。

その周囲には横たわる敵の亜人や味方の獣人の骸。

「ガルドか、よく戻って来てくれた。」

「ルナ…また無茶をして…。まったくこの娘は…。」

娘と忠臣の健在を知り、安泰の表情表情を浮かべる王と王妃だったがその時、轟音と共に周囲を破壊し、現れた者がいた。

「へぇ、やるじゃない。まぁ雑魚共の相手だけどね!」

狂喜に満ちた笑顔と共に現れた浅黒い肌に乱雑な長髪の黒髪、三白眼の赤紫の瞳。横に長い耳。形式的にだがハイエルフと同等に扱われる種族、ダークエルフだ。

そして業物であろう魔力を帯びた黒い鎧と剣。

王と王妃、ガルドは身構える。

彼らの本能はこのダークエルフがいかに危険か察していた。

「ガルド…ここは我らで喰い止める。娘を、ルナを…そして『神機』を頼む…。」

王は覚悟を決めた風格でガルドに指示を出す。

王妃は布に巻かれ、まるで封印されたかのような長物の『神機』をガルドに渡す。

「王!ここは儂が!この老骨めに!」

ガルドは叫ぶように王に進言するが

「結局お前には及ばなかったが我も曲がりなりに戦士だ。

ルナはお前によく懐いているしお前を死なせたらルナに怒られる。」

「ガルド、頼みます。きっとその娘なら『神機』に選ばれる筈。」

王と王妃は微笑み、そして王妃が手をかざすと

玉座の後に、空間のような物が開く。

「ほう、『転移門』か…。それを無詠唱で…。大したもんだ。」

ダークエルフの戦士はその風貌に似合わず、感心を示した様子だった。

「どうした、ザイラス?何か問題か?」

ザイラスと呼ばれたダークエルフの後から

やたら絢爛な装備を纏った指揮官らしき金髪と白い肌の、耳の長いハイエルフの男のが参謀らしき女性を引き連れて現れた。

「雑魚どもが戯れてただけですよ、指揮官殿。」

ザイラスは片手で弄ぶように剣を回しながら指揮官の男に不敬かつ皮肉めいた態度で答える。

「フン!まあいいさっさと片付けろ。…なんだあれは?」

「『転移門』ですね。まさかあれ程の小規模なものが…。」

小柄で華奢だが凛としてる参謀のハイエルフの女性が答える。

「『神機』だけでなく『転移門』までもか!これは僥倖だ!ザイラス!さっさとこの『ケダモノ』共を片付けろ!」

指揮官は歓喜の様子だ。

「ガルド!」

王妃が叫ぶとガルドは転移門めがけ駆け出す。

「させるか!」

指揮官は右手をかざすと火球を連続で放った。

『魔法』といわれる術だ。

だがガルドは巧みにそれを躱す。

着弾時の爆風でルナが目を覚ます。

「!!これは!父上は!?母上!?」

混乱こそしているがルナは状況を理解しつつある。

指揮官転移門を塞ぐように、そして傷つけないように火球の魔法を放つ指揮官。このハイエルフの男、見かけだおしや口だけでは無さそうだが

「もらった!」

王が跳躍し、ガルドに気を取られていた指揮官めがけて太刀を振り降ろす。

しかし、参謀の女性が防御魔法でその渾身の一撃を受け止める。

「我が一撃をも防ぐか…。まったく『魔法』というのは厄介だな…。」

王は不適にも笑みを浮かべる。

その刃は指揮官に届かずとも、時を稼ぐには十分だった。

「ザイラス!何してる!」

王の一撃に慄いた指揮官だったが思う事があるのか静観していたザイラスに再び指示を出す。

すると閃光の様に放たれた炎を纏った斬撃が王を斬りつける。

「父上!!」

その姿を見たルナが叫び暴れ出す。

「離せ!ガルド!!離せ!!」

しかし、ガルドはその剛腕でルナを固定し離さない。

ガルドは振り返らず、転移門へ飛び込んだ。

「父上!!母上!!」

泣き叫び、手を伸ばすルナだったが転移門へ飛び込むとその姿は見えなくなる。

一瞬の出来事だがルナには見えた気がした。

転移門へと飛び込んだ二人を確認した王と王妃、父と母の微笑みを。


そして次の瞬間、転移門は王妃の矢によって粉砕される。

「ほう、コイツはたまげた。『付呪』使えちゃうのね。」

ザイラスは再び感心した様子で王妃を見る。

「『付呪魔法』だと?!おのれ…ケダモノの分際で…!」

だが指揮官は憎悪をむき出しにしている。

自分達の特権だと思われていた魔法で貴重な宝であろう『転移門』を破壊されたのだ。

「ザイラス…!貴様のせいだぞ!貴様の怠惰のせいで…!この責任は取って貰うぞ…!」

指揮官はザイラスを睨みつける。

「へぇへぇ、そいつは申し訳ございやせんでしたっと。」

ザイラスに反省の色はなさげである。

「この失態…なんと『議長』に弁解すれば…。」

怒りに満ちてるが同時に指揮官は自分の立場を心配してる様子だ。

「彼ら『月狼族』は獣人でも戦闘力に優れ、知性の高い者です。我々の軍もも無視できない損害を受けております。決して安易な相手では無い事も『議会』の方々にはお解り頂けるかと。」

「『ケダモノ』に敬意など不要だ。下等生物共が…。」

参謀がなだめるも指揮官の不機嫌は収まりそうにない。

「後の事を心配してるようだがまだ終わって無いぞ。『長耳共』!」

ザイラスの斬撃を受けるも倒れる事なく王は武器を構える。

王妃も矢をつがえ、弓を構えるとそこから風が巻き起こる。

「風の精霊よ、今一度、我が矢に力を…我等に仇なす者を穿つ一撃を…」

「ははっ!!来たぞ来たぞ!!こいつは『上級』の奴だ!

いいね!悪く無い!!」

王妃の詠唱、そしてこの魔力の気配、まさしく『上級魔法』と呼ばれるものが発動したとエルフ達は察する。

「これ程の相手です。そして、述べられたようにザイラス様の行動にも問題はありますし…お立場の心配はご無用かと…。」

「フン、賢しい女は好かん。」

機嫌の治まらない指揮官は剣を構える。

「下等生物共が!いい気になるな!私が自ら引導を渡してやる!ありがたく思え!」

「おいおい指揮官さん、横取りかよ。こいつはついてねぇなぁ。」

獣人の王達とエルフの指揮官達の剣戟と魔法がぶつかる。

王妃の魔法が発動し、城は崩れ、周囲に衝撃が放たれる。


「いせかいてんせい?」

「そう、『異世界転生』だよ光氏。テンプレなジャンルだよ。」

これは光が小学校の時の記憶。

散歩に付き合っていた光の親友との会話だった。

「色々言われる事もあるが偏見が無ければ普通に楽しめるしアニメ化されてヒットしてる作品も少なくない。いくつか聞いたこともあるのでは?」

饒舌に語りだす少女。

彼女は光の親友、斑目多摩緒(まだらめ たまお)

黒髪をおさげにして大きめの眼鏡をかけた少女だ。

一見地味なようだが成績優秀、スポーツ万能で

大人顔負けの『オタク』でもある。

光にゲームやアニメを教えたのも彼女だ。

「一括に『異世界に転生』といっても様々だからねぇ。

とあるモンスターに転生するもひょんな事から強大な力を得て他のモンスターを統率し、覇権を拡大する作品。」

多摩緒は眼鏡を上げ、熱く雄弁に語りだす。

「ぼっちゲーマーが魔王となり、かわいい女の子達と共に冒険をする作品!」

多摩緒は拳を握り手を振るい、語る。

「凡人であるが条件付きの生き返り能力を手にし、策を練り、状況を打開する為に葛藤する作品!」

熱く語る多摩緒に対し、光は聞き言ってる。

「ふあ〜〜〜ぁ…」

リキマルは退屈そうにあくびをする。

「おや?わんこ君には退屈だだったかな?」

多摩緒はリキマルの方を向き、語りかける。

「輪廻転生、異世界、非科学的であるが同時に、それらを否定出来る証拠や証明も無いのだよ。」

多摩緒は何やら難しい話をし、ギザギザの歯をむき出して笑いながらリキマルの身体を撫で回したりこする。

「………」

リキマルは多摩緒に対してそっけない態度ではあるが

決して嫌いでは無い。

良い奴なのは解るがクセが強いので対応に困るのだ。

「そう、わんこ君。もしかすると君が異世界に行くのかもしれないのだぞ?」

リキマルの間近まで顔を近づけ、意味深に多摩緒は語る。

「転生、パパとママも転生したのかな?」

光がそう尋ねると多摩緒は立ち上がると

「どうだろうね。だが、親御さんたちが異世界転生するとしたら穏やかなスローライフを送ってる事を願うよ。」

彼女なりの思いやりなのか、はたまた冗談なのか

そうこたえた。


「まさか、転生…か…?」

リキマルは変貌した『前脚』を見つめ呟く。

無意識にあぐらをかき、考える姿は『人間』の様でもある。

「多少なりとも人間の言葉はわかっていたつもりだが…まさか喋れるようになるとは…。」

リキマルは言葉を発せる事が出来るようにはなったがまだなれない故、思わず思ってる事を口にしてしまう。

まだこの身体に慣れてないのか、『前脚』の指を握ったり開いたりして動かし方の確認をしている。

「しかし顔とか尻尾は犬のままだ…。でもこういう奴、光がやってた『ゲーム』にいたな…。」

今のリキマルのように獣の顔と尻尾と毛皮を持つ獣人達が出てくる所謂『シミュレーションRPG』に分類される物を光がプレイしてたのを思い出していた。

獣型、鳥型、昆虫型、ケンタウロス型や人型メカまで出てきた内容だ。

斑目多摩緒もこのゲームがお気にいらしく、やたらと推していた。

「ここが異世界で無けりゃ…俺はバケモンだな…。」

水面に映る自分の姿を見てリキマルは呟く。

そして、物凄い速さで水に手をっこんだかと思うと熊のように魚を陸に打ち上げた。

「見たこと無い魚だ。まぁ魚なんぞめちゃくちゃ種類いるからな…。臭いからして…なんとか食えそうだ…。」

リキマルは木々を広い集め、火を起こそうとする。

「えっと…どうやって火をおこすんだったか…。弥夜はどうやってか…。」

リキマルは光達とキャンプに行った事を思い出す。

弥夜はキャンプについてとても詳しかった。

ライターやマッチ無しで巧みに火を起こして見せる事もあった。

「えっと…木と木を擦り合わせて…」

記憶は曖昧だった。まさか犬の自分が火起こしする事になるとは夢にも思って無かったからだ。

「まぁいいか適当で…」

するとリキマルは掴んだ木を置いた木に押し付けると

「おりゃおりゃおりゃ!!」

凄まじい膂力と速さで擦る。当然人間技では無い。

すると、木は燃えだした。

「いけるもんだな…。」

力技で火をつけた。

本来動物は火を怖がるがリキマルは元より改造された生物故に火を恐れず、幾度かキャンプに行った事により火には慣れていた。

「うむ、悪くないが塩が無い」

見様見真似で魚を枝に刺し、焼いて食べて見た。

魚を獲ったのは湖、塩は無い。

「とにかく野生で生きるしかない。人間のキャンプとかの真似をしながらやるか…。」

そう呟くとリキマルは寝床の確保やらを始める。

人間の腕のようになった前脚でものを掴んだり持ったりはできる。しかし慣れないせいもあってか、形は人間の手とはまた別の物である故か、あまり器用には動かせない。

寝床を作るっての無理そうだった。

しかし偶然にも何とかリキマルが入る位の洞穴を見つけた。そこに集めた草木を敷き詰め、寝床を作る。

「さぁて。これから『スローライフ』といくか?」

元より猛獣をも凌ぐ戦闘力を持っていたリキマル。

新たなる身体はそれにさらに凌駕していた。

力を入れて叩けば巨木をへし折り、岩をも砕く。

跳躍すれば飛ぶ鳥に追いつく。

疾風の如く駆け回ればいかなる動物も逃れられない。

「しかし見たこと無い動物だらけだ…。知ってるのとは確実違う…。しかし、世界は広いからな…。」

よく食料にする鹿のような生き物がいる。

しかし、それは知ってる鹿では無い。

鳥もいるが見た目も鳴き声も何かが違う気がしてならないのだ。

リキマルは手頃な石を掴むと飛んでる鳥めがけて投げつける。

弾丸のように飛んでいくも目標の鳥からは大きく逸れていた。

「今一つコントロールってのが掴めねぇな。」

この場所に来て、この身体になって数日が経過していた。

リキマルは野生のスローライフを堪能してるようである。

「グゥゥゥゥゥ…」

リキマルの腹が音を立てる。

「腹が減った。とりあえず他の獲物を探すか。」

リキマルは動物の気配を探り、臭いを辿る。

「変わった臭いだ。獣の様な…人間?のような…?それに…こいつは火の臭いだな…肉の焼ける臭い…食いもんだ…。」

リキマルは慎重に、忍ぶように臭いの場所へと向かう。

(あれは…人か!?肉を焼いてる!食いもんだ!)

茂みから覗く先には倒木に腰をかけ、狩った獲物を焼いている人のような姿があった。

毛皮のフードマントを纏っているせいか、顔はよく見えない。

焼いた肉を食べているようであるが少し齧っただけで食が進まないようだ。

「人間なのか?しかし何か違うな…。そしてこれは♀の臭いだ。」

リキマルは雌の臭いに興奮気味だ。鼻息が荒くなる。

「!?何奴!!」

そこにいた人間らしき女は立ち上がり、弓を構える。

(不味い!みつかった!こんな姿見られると気味悪がられる!)

「出てこい!でなければ射つ!」

彼女はそう警告すると肉を口に咥え、矢を構えた。

(美味そうな臭いだ…。とりあえず犬のふりしとこ…。)

リキマルはよつん這いになり、彼女の前に姿を表す。

「?狼なのか…?なんて大きさだ…。」

彼女はリキマルの姿に驚く。

それに対してリキマルは

「わん…わん、わん…!」

なんとも棒読みな鳴き真似である。

犬の時も声も出せるが焦りと緊張で棒読みになってしまっていた。

「変わった鳴き声だな…」

しかし、敵意が無い事が伝わったのか、彼女は弓を降ろす。

「食べるか?」

彼女は再び腰を下ろすと安堵したように微笑み、食べかけの肉をリキマルの前に差し出す。

「バフッ」

リキマルは思わずその肉へと飛びつく。

(うめえ!肉うめえ!味付けが良い!しかしこれ、『間接キス』ってやつじゃねぇか?)

「いい食べっぷりだな。まだまだあるぞ?食べるか?」

リキマルの姿に安心したのか彼女はフードを下ろす。

褐色の肌に金色の髪、そして頭に飛び出した狼の耳。

彼女は月の王国の姫、ルナである。

「上手く食事にありついたな。お前は賢いな。」

そう語りかけるとルナはリキマルの頭や身体を撫で回す。

鍛え抜かれて引き締まっているがしなやかで柔らかい手と肌。そして彼女からはいい匂いがする。そして、興奮する。リキマルは緊張で固まってしまった。

「おっと、すまぬな。食事の邪魔をしたか。」

そのリキマルを察してかルナは離れてしまった。

リキマルにとっては助かったような、惜しいような。

「姫様、どうやら此処は『禁忌の森』のようですじゃ。」

屈強な隻眼の同じく狼の耳と尻尾を持つ老戦士が現れた。

ガルドである。

「姫様、変わった獣ですな?『禁忌の森』故にですかな?」

ガルドも不思議そうにリキマルを見つめる。

「肉の焼ける臭いに引きつけられたやもしれぬ。見慣れる大きい獣だが、害はなさそうだ。」

ルナは再びリキマルを優しく撫でた。

「しかし姫様、姫様も何か食べなくては…」

「喉を通らぬ………あのような状況を目にした後ではな…」

ルナは深刻な顔つきになった。

「それでも、無理にでもお口にお入れくだされ…いざという時、動けませぬぞ。」

「ガルド、そなたも疲れておるであろう…。休め…。」

互いを気遣い合う、絆の深さが伺える。

「某の事は気になさらず…、とはいえ美味そうな匂いですな。」

ガルドは腰掛け、焼いた肉を口に入れる。

「ほう、美味い!これはもう何時でも嫁にいけますな。最もこの老骨めに勝つ男で無ければ許しませぬがな!」

ガルドは明るい口調で話す。

「それではガルドが天命を終えるまで婿は現れぬな。だが私は戦士だ。婿はいらぬ。」

ルナは微笑みそう返す。

「むむ、困りましたな。姫様が夫を迎えるまでこの老骨めは逝けませぬな!ハハッ!」

何気ない会話で場は和んだ。

しかし、その時だった。

「!!姫様、『奴ら』の気配ですぞ!」

ガルドは立ち上がり、その気配の方向を睨みつける。

遠方から矢が飛んできたがガルドはものともせずそれを己の刀剣で払い落とす。

「見つけたぞ。人獣ライカンども。」

そこには武装したエルフの追撃部隊がいた。


「エルフ共…気配も臭いも無かった…何故…」

ルナはエルフ達を睨みつけるように立ち上がり、弓を構える。

「臭いや気配を消す付呪がされた装備ですな。エルフ共が忌み嫌う『禁忌の森』に転移されたと油断しておりました。」

ガルドも己の失態を悔やむように言ったがすぐに己の刀剣を構える。

騎乗用の大きな鳥のような生き物に跨った一際派手な装飾の鎧を纏った隊長らしきハイエルフの男が手をかざし、得意気に語る。

「最早、我々はこの『禁足地』を恐れはせぬ。元より、全て『真なる人』に最も近し、いや、我らこそ真なる人そのものたる我らハイエルフの地なのだ!」

「なんたる傲慢な事か…この地に伝わる謂れ、解せぬ程に愚かと観える…。」

「フン、それはお前らケダモノとて同じでは無いか?」

「貴様らエルフ共には『獣皇神』に対する畏怖も敬意も無い。何より傲慢に満ちた心では『獣皇神』の怒りを買うぞ。」

ガルドはエルフの隊長の言葉に噛み付いていく。

「お行き。ここは危ない。」

ルナは静かにリキマルに語りかける。

月の王国の戦士の誇りにかけ、潔く捕まる気も殺される気もない。

ここは直に戦いの場になるだろう。無関係の生物、リキマルを巻き込みたくないという意思が伝わる。

「………」

リキマルは一旦その場から離れる事にした。

この人獣と呼ばれた者達も優秀な戦士だ。

簡単にはやられまいと地下闘技場で死線を幾度も超えてきたリキマルにはそれが解る。


「とおりゃあ!」

次の瞬間、ガルドが隊長めがけて斬りかかった。

「っひ!?」

しかし、寸前の所で偶然にも隊長の後方より放たれた魔法の数発の火球がそれを遮る。

ガルドはそれらを太刀で払い、いなす。

火球はガルドから大きく逸れ、爆ぜる。

「何をしてる!此奴を撃て!」

隊長は後退し、その声の後に矢が数本放たれる。

弓とは別、魔法攻撃の付呪がされたボウガンの矢だ。

ガルドはその矢を太刀で払うがこれらには風の魔法が付呪されている。

ボウガンの矢は更に速く、そして変則的な動きをする。

疲労からか、ガルドはそれらを全て防ぎ切れず、左肩と右脇腹にそれを受けてしまった。

「くっ!」

ガルドは苦痛の声と共に大勢を崩す。

「ガルド!」

ルナがガルドの側に駆け寄り、支えようと手を伸ばす。

「姫様、ここはお逃げくだされ…!」

しかしガルドはそれを払いのけるようにしてルナにそう言った。

「何を馬鹿な事を…!お前まで失ってなるものか!」

ルナは弓を構えるとエルフの隊長目掛けて放つ。

ルナは無意識に魔力を込めたのか、この矢にも初速と破壊力を重視した風の魔法が付呪されていた。

しかし、その矢は隊長の前で止まる。

光の壁のようなものが現れ、指揮官を守っていた。

「ケダモノ風情が魔法とは…。驚かせてくれる…。しかしその程度ではこの防御魔法は突破出来まい!」

エルフの隊長は勝ち誇ったように、得意げに語る。

「鎧だけは高価なようだな…。」

ガルドはよろけながらも隊長を睨みつけ、皮肉を言い放つ。

「『神機』さえ手に入れば良い。殺して奪い取れ!」

隊長はルナ達に剣を向ける。

兵達が剣とボウガン、魔法術式を構えたその時だった。

それらを遮るように轟音と共にルナ達の前に降り立った者がいた。

巨大な獣のようであり、人のようでもある姿、

獣人と化したリキマルだ。

「何だ!このバケモノは!?」

隊長は思わずそう叫んだ。

「…犬だ。」

答えるようにリキマルはそう言った。

「イッ…ヌ…?」

ルナは不思議そうにリキマルを見つめる。

「何かは知らぬが気色の悪い化物め!このケダモノ共と一緒に殺してしまえ!」

エルフの隊長がそう叫んだ瞬間、エルフの隊長はリキマルに頭を捕まれ、轟音と共に押し倒されるように、そして突き刺さる様に頭から地面に埋もれていた。

「隊長ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

兵達の一人があまりの出来事に叫ぶ。

攻撃を防ぐ防御の魔法が付呪された鎧を纏ったエルフの隊長が

凄まじい速さとその膂力で一瞬にして地面に埋め込まれ、葬り去られたのだ。

「殺す気ならテメェらも殺されるって事だ…。」

リキマルはハイエルフの兵達を睨みつけ、こう呟く。

(コイツラからは…嫌な匂いがする…。)

リキマルは思い出していた。

地下闘技場にいた人間達を。

光を攫った者達を。

眼前のハイエルフ達はリキマルの記憶に残るその者達を思い出させるのだ。

「とにかく殺せ!あのバケモノを殺せ!」

隊長を失うもハイエルフの兵達はリキマルを倒そうと必死だ。

「うごっ!」

剣を構えた兵が一人、ふっ飛ばされた。

リキマルの殴打の一撃を受けたのだ。

全身に鎧を纏うも吹き飛ばされ、跳ねながら転がる身体の間接はあらぬ方向に曲がっていた。

「死ねぇ!」

そのすぐ側にいた兵が剣で斬りかかる。

しかしリキマルはそれを躱すと後ろ回し蹴りで反撃。

頭部にそれを受けた兵は錐揉みしながら吹き飛んだ。

その直後、リキマルの側面を二本の矢が飛んできた。

しかし、それをリキマルは片手で、二本とも指に挟んで受け止める。

そして、すぐさま飛んできた方向へ投げ返す。

だが、矢は放った兵から逸れる。

弩兵は一瞬安堵するも、

しかし、その直ぐ後をリキマルが追いかけて一瞬で矢を放った兵達に迫る。

(まだ投げるってのは不慣れだな。狙った場所に当たらねぇ。)

リキマルは一瞬そう思いながらも

弩兵の一人を殴打すると数本の木をへし折りなが吹き飛んでいった。

リキマルは弩兵の一人の頭を掴み、そしてそれを残った弩兵に投げつけた。

その時、数発の火球の魔法がリキマルめがけて飛んでいき、リキマルの元で爆ぜる。

「ははは!皆中!」

魔法を放ったハイエルフの魔導士は歓喜の声を上がる。

だが、爆煙の中、リキマルの姿は健在であった。

「馬鹿な…あれをまともに喰らって無事な筈が…」

その刹那、リキマルの姿が魔導士の眼前に迫る。

瞬きする間にリキマルの裏拳が魔導士の首を跳ね飛ばした。

一瞬にしてハイエルフの追手の部隊は殲滅された。

その光景に呆然するルナとガルドであった。

「そのジイさんは大丈夫か?」

リキマルが二人に声をかける。

「ガルド…今治癒を…でも矢を抜かないと…」

ルナはガルドの傷口を見るが動揺している。

「この老骨めの事は気にせんでくだされ…」

心配するルナをよそに気丈に振る舞おうとするが

毒が塗られていたのか、ガルドは次第に弱っていく様子だった。

「その矢を抜けばいいんだな?」

リキマルはガルドに迫って行く。

異様な巨大だがルナもガルドもリキマルに対して恐怖心は無かったか。

「待ってくれ。そうだこれで…。」

ルナは纏っていたフードマントを丸め、ガルドに咥えさせる。

「よし、いけるか?」

ルナがリキマルに声をかけた。

「フンヌッ!」

「うごがあああああああああああああああああああああ!!」

リキマルは一気にガルドに刺さった二本の矢を抜き放つとガルドの叫び声が森中に響き渡る。

そして傷口から血が噴き出す。

「すまぬ、ガルド、今から治癒術をかけるぞ。」

「それはそうと…せめて心の準備をしてから矢を抜いてくだされ…」

ガルドは息も絶え絶えに文句を言った。

ルナは目を閉じ、詠唱を始める。

「万物と生命の根源たるマナよ…この者の傷を癒やしたまえ…再び活力を漲らせ、この者の傷を塞ぎ、血肉を元の姿へと…」

ルナは真剣かつ慎重な様子だ。

周囲は微かに青緑色の光を発し、周囲にはオーブ状の極小さな光の玉が無数に浮かび上がる。

ルナは光の漂う手をガルドの腹部にかざすと出血が止まった。

「ふぅ…とりあえず血は止まった…次は肩か…。」

この魔法を使うのはルナにとってはかなり消耗するようでかなり集中していた様子だ。

「姫様、肩も血が止まったようです。手を煩わせて申し訳ない。」

「構わぬ。しかし、傷を治すまでは至らぬか…。母のようにはいかぬか…。」

ルナとガルドはフードマントを破り、それで傷口を覆った。

そして、ルナは振り向くと

「お主も怪我をしてるだろ?火弾を受けた場所をみせてくれ。」

とリキマルに声をかける。

「え…あ……と…」

リキマルは戸惑いながらも腕のようにに変貌した左前脚をルナの前に出した。

ルナはリキマルの左前脚を両手で掴み、見つめる。

リキマルは眼前に迫るルナの姿と匂いに思わず興奮し、熱くなり、緊張する。

(なんだ…コイツ…凄い♀の匂いだ…そしてなんて柔らかくぬくもりのある手だ…。そんでなんて格好してやがる…『コスプレ』か…?)

長らく忘れていた感覚が蘇る。♂としての本能が。

「これは…まさか無傷?!それとも傷が再生してるのか?!」

ルナが驚き、更にリキマルの前脚に顔を近づける。

「…もういいか?」

リキマルは恥ずかしそうにそっぽ向きながらルナに尋ねる。

「ああ…失礼した…。」

ルナは手を離すとリキマルは即座に前脚を引っ込める。

「妙な事を尋ねるが…」

ルナが少し間を置いて問う。

「お主、いや貴殿はまさか『獣神ロアルプス』の化身か?」

『獣神ロアルプス』

この世界で主に人獣達に信仰されている今のリキマルのような姿をした神だ。

最強の『闘神』であり、戦いの神とされる。

「じゅうおうしんろあ……何だそれ……?」

リキマルは不思議そうな態度と表情をする。

この世界に来る前、飼い犬として暮らしていた頃、

光の好きそうなアニメやゲームに出てきそうな名前だが

その名前には聞き覚えが無い。

「その名を知らぬとは…言葉を知っていてもこの世界の事は存ぜぬと観ましたぞ。」

落ち着いたガルドが発言する。ルナもリキマルもガルドの言葉に耳を傾ける。

(見た目はいかついが察しの良さそうなジィさんだな。助かる。しかしよく考えるとなんでか知らねぇがコイツらの言葉は解るし話せるんだよな…。)

「そなたは別の世界から来られたのでは?何せ神話には登場してもそのような姿の者は見た事がありませぬ。」

「この世界に『犬』はいないのか?今は二本脚で立ってるが…俺みたいな…四本脚で歩くやつ…。」

リキマルは何か不安気にガルド達に問う。

「『イヌ』という生き物は聞いた事も見たこともありませぬな…。」

ガルドは不思議そうな顔をして答える。

「犬…ああいう感じのだ…。」

リキマルは遠くを指すとそこには狼のような姿をしている動物がいたが体毛から耳の形状、そして角まで生えており、『似て非なるもの』といった感じである。

「あれは『クーシー』ですな。あれに似たのならエルフ達が使役する魔法生物の『ヘルハウンド』というのがおりますが…。」

リキマルの質問にガルドが答える。

「あれは犬じゃないのか…。しかし改めて見ると異様な生き物だ…。」

「それをそなたが言われるか…。」

リキマルの言葉にガルドは思わずそう言葉が出た。

「ガルド、命の恩人に失礼では無いか?」

ガルドの不用意な発言に対してルナが注意する。

「別にそんな事、どうでもいい。今はわからん事だらけだ…。」

リキマルは地下闘技場にいた頃、散々バケモノ呼ばわりされていた故に多少の罵詈雑言は何も感じない。

何より、この世界の事に対しての疑問だらけでそれどころでは無いのだ。

「しかし、記憶は無くともその強さ…やはり『獣皇神』の化身では…?」

ルナが今一度尋ねるが

「いや…俺はリキマル…犬のリキマルだ…。」

リキマルはそう名乗る事しか出来なかった。

「では…リキマル殿…これからどうなさいますかな?助太刀には心より感謝致しますが…ハイエルフに手を出したとなると我々と同じく追われる身になるかと…。」

ガルドは感謝の意を述べると共に警告を述べる。

「この『人間』みたいな連中と敵対したという事だな?それは構わん。こいつらとはいずれやり合う事になったろうな。」

リキマルはハイエルフ達とはいかなる状況であっても敵対すると臭いと本能で解っていた。

かつてリキマルの嫌いな人間達と似た匂いがする。

本能的に、連中を許す事が出来ない。

「ニン…ゲン?」

「ふむ…『ニンゲン』…。もしかするとハイエルフの信仰する『真なる人』と関係があるかもしれませぬな…。」

ルナは聞き慣れない言葉にあ然とするが

ガルドは何かを感じたようだ。

「ともかく奴らと敵対する理由があるなら我々の味方という事で良いのだな?」

ルナは少し嬉々とした表情と声で事態を解釈したようだ。

「…全ての人間が嫌いという訳では無いが…。」

リキマルは呟く。

「『獣神』の化身がいるのだ!ハイエルフなど恐るるに足らん!」

ルナは興奮気味だ。

「話、聞かない系…?」

「…そういうとこありますな。」

囁く声で尋ねるリキマルにガルドが囁く声で返す。

「しかし、見れば見るほどに凛々しく、逞しい姿だ!…その…触っても良いか…!?」

ルナは更に興奮し、リキマルに顔を近づける。

そして、ルナの露出の多い服から解る豊満な身体も迫ってくる。そしてたルナのわわな胸がリキマル触れそうなったその時だった。

「ワォん!?」

リキマルは思わずのけぞった。

「?これは尻尾?二つ尻尾があるのか?」

ルナは一瞬驚いたが目の前に現れた別の尻尾のような物に興味が惹かれ、思わずそれに触れそうになる。

「触るな!」

リキマルは思わず叫び飛び退くと、ルナに背を向けかがみ込む。

(なんてこった…年のせいで忘れてたが………♀に反応してしまう………薄々感じていたが…年食って使い物にならなく前に、人間の♀にも反応し始める事が度々あったんだよな…。同類の♀とつがいになれなかったせいか…?)

リキマルは色々と思う事があるが

この状況に対して、対処の方法が解らず混乱し始めている。

「リキマル殿?どうなされた?」

ルナが心配そうにリキマルに近づく。

「ちょ…待っ………!」

その時だった。

ルナを制止するかのように出した前脚がルナの胸に触れ、指で鷲掴む形になった。

柔らかい感触がはっきりと伝わる。

「ワオ!?」

リキマルは驚き、思わず木陰に隠れてしまう。

(ああ!駄目だもう駄目だ!ヤバい!ヤバい!)

リキマルは興奮が抑えられない。

(鎮まれ!鎮まれ!鎮まれぃ!)

リキマルは落ち着こうと自分に言い聞かせる。

「しかし驚いた…。尻尾が二つあるとは…。しかし『獣皇神』の尻尾は一つだったような…?」

「姫…。」

(そうだ…!アレだ!ジジイの…。)

リキマルは思い出した。狗走一の、初老とは思えぬ筋骨隆々の肉体を…。

男臭い体臭を…。

「よし!鎮まった!」

落ち着いたリキマルが木陰から姿を表す。

「リキマル殿…。」

安堵したようにルナがリキマルに近づこうとする。

「待て!来るんじゃない!」

しかし、リキマルはルナを静止する。

ルナの近くにいると興奮が収まらない。

心地良い存在の相手だと解るのだが。

「………」

「悪いけど、ジィさんの方と話を進めたい…。」

ルナは寂しそうにリキマルから距離を取り、ガルドにその場を任せた。

「リキマル殿、如何された?姫が何か失礼でも?」

「いや…そういう訳では無いが…。」


「で、オメーさん達はこれからどうすんだ?行く宛はあるのか?」

「この先に…かなり距離はありますが我々とは別の人獣の集落があったかと…。我々『月狼の民』とは交流は盛んではありませぬが同じ人獣の者、期待は出来ませぬが頼ってみるしかありませんな…。」

ガルドは深刻な顔つきで答える。

他に宛も無いといったところか。

「その、迷惑かもしれんが…ついて行って構わんか?何しろこの世界の事は何も解らねぇ…。」

「話の流れ的には既にそうなるかと。それこそ姫と某は歓迎致すが…姫様の事は大丈夫ですかな…?」

ガルドもルナに対して突如の態度が気になっている。

「別に嫌いとかそういうのじゃねぇ…むしろその逆みたいな…。」

「逆…?」

「大した事では…あるかもしれないがとにかくだ…ついて行って構わんなら俺も助かるんだわ…。」

つい先程までエルフの兵相手に無双の立ち回りをした者とは思えぬ控えめな態度だった。

「フフ…よろしく頼み申す。」

ガルドはその態度を観てか、少し笑いながら行った。

「よろ…しくな…。『犬』のリキマルだ…。」

ぎこちなくもリキマルは返す。

「月の王国、ルナリアの王女、月狼の民、ルナだ。宜しく頼む。我が父と母、そして戦士達と民の仇を討つためのご助力に感謝する!」

ルナは王女らしく威風堂々たる態度で自己紹介をする。

「某は誇り高き月の王国に使える元戦士長ガルド。老骨の身なれど存分に働いて見せましょうぞ。」

ガルドも武人らしく続く。


かくして一匹(?)と二人(?)の旅が始まった。


そしてそれは、異世界に降り立った犬、リキマルの冒険の始まりであった。










見切り発車です(苦笑

とりあえず後で修正すればいいやという感覚で出しました(苦笑

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