第9話
肉を食べ終わった頃には人が起きてくる時間になってきました。
さてと、そろそろ街へ行きましょう。
この世界のことを聞きたいです。
どうしてもこの世界では魔物が多いですからね。
人間の方の情勢も知っておくべきと思っています。
ただ、ヒロシ殿のように人間と過ごすことはできないかもしれません。
以前よりもかなり食べるようになりましたから。
それに食べ物も肉ばかりです。
おそらく人間は種族的に肉ばかり食べていては体調を崩すような気がします。
仕方ありません。
人間と過ごす時間も結構面白いのですけど残念です。
しかし、人間がそれなりに食べ物を持っていれば問題ありません。
そういう人を探しましょう。
さて、街の門まで来ました。
なんというか。
この世界の街には門があるのですね。
前の世界では門なんてなかったのですが。
小さなものはありますけど、人が1人通ることができる程度のものです。
魔物がいるせいですかね。
しかし、このような門で魔物から身を守ることができるとは到底思えません。
先ほどのヤマミツネはこのような門を簡単に壊してしまえるでしょう。
人が出てきましたね。
話をしてみましょう。
『ここは人の住む町ですか?』
「魔物がしゃべった。」
男の人はその場で腰を抜かしてしまったようです。
尿の匂いがするので失禁までしています。
その様子を見た槍を持ったみすぼらしい兵士がやってきます。
「おい、大丈夫か?」
「しゃべった…、魔物が人語をしゃべったんだ。」
なんか雰囲気がおかしいですね。
彼女もしゃべっていましたので、上位種の魔物はしゃべるものだと思っていましたか。
彼女はしゃべる魔物が少ないと言っていましたが本当だったのですか。
「魔物がしゃべる?何を言っているのだ?そんなことはないだろう。」
『本当に話せますけど。あなたはここの住人なのですか?』
「…本当にしゃべりやがった…。お前早く立て。そしてもっと人数を連れてこい。」
「はいぃぃぃぃぃ。」
彼は泣きべそをかきながら走っていく。
その姿はまるで逃げるよう。
私から逃げるためだろうね。
「おい、魔物。」
『ショウスイという名前があるのですが?』
「どうでもいい。何しにきやがった?」
これではまともに会話ができないような気がします。
木の棒を持っている彼も腕がかなり震えています。
これでは魔物を倒すことなんてできないと思います。
しかし、妙ですね。
私よりも強い魔物はいるはずです。
この街の周辺に居たので、人間もそれなりに強いのだと思っていました。
この様子では思い違いだったようです。
では、彼らはどうやって生きているのでしょうか。
彼の後ろから多くの人がやってきます。
やはり彼らの姿はみすぼらしいものです。
以前の世界ではこのような人たちを見たことはありませんでした。
「大丈夫か、ラルク。」
「ああ、何もされちゃいない…。ただ、この雰囲気。普通の魔物じゃねえぞ。」
「ここの自治を任されているランスという。このラルクの親に当たる。あなたは何しにきなさった?」
良かった。まともに話を出来る人が現れました。
これでこの世界の話をしてくれるでしょう。
『この世界の話を聞きに来たのです。』
「本当に…、魔物がしゃべった。」
その年配の男性は後ろに下がったが、違う男の人に支えられました。
運よくこけるのを回避できたようです。
顔色がかなり悪いので私のことで驚いているのでしょう。
しかし、そこまで変なことをしている覚えがありません。
もしかして、この世界の魔物は人語を理解していないのでしょうか。
私の世界でも半分くらいの犬は理解していたというのに。
『それで私の疑問に答えてくれるのでしょうか?』
「答えると思うか、魔物よ。」
先程、年配の男性を支えた人。
この人、思ったよりも強いのかもしれません。
背は確かに一番高いですね。
ヒロシ殿よりも高いです。
だけど、そこまで怖いという印象はないです。
私が強くなったからでしょうね。
『どうして答えてくれないのです?』
「こちらに利点が何もないからだ。
情報を仕入れてここへ攻めてくるかもしれん。
魔物には人肉を好んで食べるやつもいる。
貴様がその魔物だと言いきれんが、それでもこの街を守るために答えることはできん。」
彼は真剣に答えてくれています。
でも、不思議です。
このように答えるのであればすぐにでも攻撃するかと思います。
彼は何を考えているのでしょう。
『では、どうして私と受け答えしているのですか?』
「貴様に俺の剣が届くかどうかも分からないということ。
そして、魔物でありながらちゃんと訪ねてきているからだ。
何1つ変なことも言っていないしな。
しかし、これ以上の話は無駄だ。
周りの人間も貴様に何1つ教えることはできん。
それこそ、普通の人間では失神するほどの強さだ。
出来れば帰ってくれ。
戦っても何1つ良いことはない。」
よく見れば彼の額には大粒の汗が流れています。
先ほどの年配の男もかなり後方に下がっています。
そして、周りの兵士たちも腰がかなり引けています。
これでは何も聞くことができないでしょうね。
彼の言う通りです。
人肉を好んでいるわけでもありませんし、争いをしたいわけでもありません。
私が引く以外にこの場は収まらないでしょう。
しかし、1つだけ聞きたいことがあります。
『わかりました。
引きましょう。
私も争いをしたいわけではありません。
ただ、最後に1つ伺ってもよろしいでしょうか?』
「何だ?」
『人は魔物に対していつもこのような対応しますか?』
「…、一概には答えられん。
ただ、俺はそこまで強くない。
それこそ勇者や英雄、もしくは単なる馬鹿は答えてくれるだろう。
本当に一部だと思ってくれていい。」
「わかりました。」
これでは私は街の中に入るのは不可能でしょう。
それこそ、戦争することになります。
別のところに走っていきました。
私の存在が強いということであれば遠くに離れる必要があります。
しかし、すごくショックです。
分かってくれる人もいると思っていました。
少し止まります。
…ヒロシ殿やサキ殿、タカシ殿のように優しい人はいないのでしょうか。
人と一緒に住むのは本当に楽しかったのです。
それにしてもこの世界の人の服はかなりみすぼらしいですね。
あのようなつぎはぎの服を着るのはどうしてでしょうか。
ヒロシ殿は直ぐに服を買っていましたけど。
何か違うのですかね。
しかし、あの住民の話では普通の人は私と話をしないでしょう。
人と過ごすのも楽しかったのに。
仕方ありませんではなかなか割り切れません。
これからどこに行きましょうか。