第33話
起きるとカルロが火を起しているのが見えました。
早いですね。
でもカルロはそれなりに寝ていましたから元気なのかもしれません。
『起きたか?
昨日は助かったよ。』
『いえ、別に。』
『ここに穴を掘ったから水を入れてくれ。』
…、カルロも慣れてきましたね。
なんというか完全にセーフエリアを家にしようとしています。
まあ、誰も来ないですしいいのですけどね。
水を入れるとカルロはその水の中に入りました。
何をしているのでしょうか。
随分と身持ちよさそうです。
『どうかしたのか?』
『いえ、何をしているのだろうかと思いまして。』
『水浴びだよ。
俺は大きくないからそこまで水が減らないだろ。
いろいろあったからさ。
毛のツヤも悪くなったし、体が痒かったからな。』
…私も同じですけどね。
しかし、ここで水浴びをするとは思いませんでしたね。
水浴びをしたいですが、私の大きさではかなりの量を使用することになりますから少し我慢です。
『では、私は肉を焼きますね。』
『おう、頼んだ。
薪はたくさん用意しているから。』
確かにたくさん準備していますね。
一体、何日ここに住むつもりなのでしょうか。
セーフエリアの外にも薪が置いてあります。
それは置いておきましょう。
いざとなればアイテムボックスに入れることができますから。
石を置いて薪に火をつけます。
薪が良く燃えます。
良質の木ですね。
肉が焼ける独特の匂いがします。
良い匂いです。
焼いているのはワイバーンの肉。
そのまま食べても美味しいですから、焼いたら美味しいに決まっています。
気が付けば隣にカルロがいます。
どうしたのでしょうか。
涎を垂らしているところ見ればよくわかりますけど。
『まだですよ。』
『でも、もう焼けてそうだぞ。』
『分かっているでしょう。これで裏も焼きますからね。
しっかりと焼けば美味しくなるのです。
手間を省いてはいけません。
それに急いでもいけませんよ。』
『うー。』
よほどお腹が空いているのでしょうか。
そんなことはないはずです。
昨日もそれなりに食べていましたから。
そんなに焼いた肉が恋しかったのでしょうか。
まあ、美味しいですからね。
底は仕方ありません。
肉を裏返しにします。
熱いので魔法で。
この加減が結構難しい。
『まだか?』
『まだですよ。
両面を焼く必要がありますから。』
待ちきれないといった表情をしています。
これはかなり食べそうですね。
肉を焼きながら別の肉を準備します。
私も食べたいですからね。
『もう大丈夫でしょう。』
カルロは肉にかぶりつきます。
実に美味しそうに食べていますね。
それだけ美味しそうに食べているのであれば焼いたかいがあります。
ただ、食べるのが速いです。
『フガ、フガ。
やっぱり焼いた方が美味しいな。』
私もワイバーンの肉を食べます。
おお、肉汁があふれて肉の味がしっかりとします。
他の肉とどうしてここまで違うのかわかりませんが、非常に美味しいです。
『すごく美味しいですね。』
『今日は食べるぞ。
決戦前にしっかり食べて体力をつけるのだ。』
『いや、体は大丈夫ですか?
昨日はかなり体力を消耗しているように見えましたが。』
『ああ、随分と寝たからな。
肉も食べていないようでたくさん食べたしな。』
いや、十分に食べていましたよ。
多いくらいです。
大丈夫かなと思ったくらいですから。
それだけ食べていたら回復もしますかね。
そんなに簡単な体の作りをしていましたか。
まあ、治っているというのですから信じましょう。
『おい、ジャンジャン焼けよ。
まだまだ食べるぞ。』
『大丈夫ですよ。
一度に焼くことができませんから、他にも準備しています。』
カルロのしっぽが激しく揺れています。
かなり嬉しそうです。
私はしばらく肉を焼くことになりそうですね。
『満足満足。』
随分と食べましたね。
肉の塊4切れも食べるとは。
あの小さな体のどこに入ったのでしょうか。
まあ、良しとしましょう。
『これからどうします?』
『少し休んでからあのドラゴンを拝みに行くぞ。
正直、勝てないと思うほど怖くはなかった。
ただ、夜だし、俺の目も見えない中では戦いたくないと思っただけの話だ。』
私も圧倒的な実力差があるとは思っていません。
夜に戦うのは危険なのは分かっていましたから。
私たちがかなり強くなったということなのでしょうね。
誇らしい気持ちではありますが、短期間で強くなりすぎているので実感が湧きません。
ドラゴンの名前も分かっていませんが火を操るドラゴンで間違いないと思います。
あのような火山活動を起させるくらいですからね。
しかし、リヴァイアサンと同じように破壊光線に近い物を出すでしょう。
あの大きさなら考えられます。
『あの状態で戦おうとは思っていませんでしたけどね。
気配を察知する能力はすごいですけど。』
『そうだな。
だから見つけるのは難しくない。
一緒に居ればいずれ現れる。
あとは勝てるかどうかの話だ。
念のためセーフエリアにはいないようにすべきだ。』
『近くに居てはセーフエリアに居ても攻撃されますからね。』
セーフエリアの難点は戦闘が継続中と判断された場合にセーフエリアに入っても攻撃されるということです。
セーフエリアに安全に入るためにはドラゴンを撒く必要があります。
直前になって撒こうと思っても難しく家を壊される可能性があります。
そうなればセーフエリアも安全ではなくなります。
出来るだけ離れたところでドラゴンに出会うのが良いのです。
そう簡単にはいかないでしょうから。
私たちは横になります。
…変な空気が私たちの間に流れます。
私たちはこのダンジョンを抜けた後の話を一切していません。
あえて、そういった話はしないことにしました。
そもそもあのドラゴンを倒せたとしてこのダンジョンを抜けることができるかどうかもわかりません。
その状態で話してもと思います。
…しかし、そのために話す機会がなくなってしまっているのも事実です。
カルロと一緒にいるのは心地よいです。
『行くぞ。
これで最後の戦いだと思いたい。』
『そうですね。
そうなることを祈りましょう。』