第2話
この世界は魔物が蔓延る世界であるようです。
それこそ、先程の生き物が魔物らしいのです。
あのような生き物は見たことがありません。
魔物は人の日常生活にいるものでその魔物を人間は倒し食べているということ。
反対に食べられることもあります。
魔物の中でも私と同じようなペットもいるらしいです。
その事実だけでも救いですね。
ただ、数は非常に少ないらしいです。
魔力を使って人に使役される魔物は従魔と呼ばれており、人に仕えています。
あくまでも魔物に自由はなく人に絶対服従のためペットとは違います。
それ以外は基本、野生の魔物ということです。
目の前にいる彼女もどうやら魔物であるらしいです。
人間の認識では。
しかし、彼女は幻獣種という珍しい種族です。
魔物に関してはこのような感じです。
動物と呼ばれる普通の生き物はいますが、ほとんどいないのが現状です。
所謂、家畜などが当たります。
人間が守ってあげなくては死んでしまうので、野生動物はほとんどいません。
『まずはショウスイの状況を教えるためにもステータスボードを開く必要がある。
私のステータスボードを見てみろ。』
【 名 前 】 ストウ
【 年 齢 】 836
【 職 業 】 世界に恐れし幻獣
【 レベル 】 875
【 体 力 】 1/100000
【 魔 力 】 195000/200000
【 攻撃力 】 16543
【 防御力 】 12985
【 俊敏性 】 34968
透明な板の中に彼女の数字が書いてあります。
彼女の名前はスノウ。
『ステータスボードがこんなものであることは分かったな。
自分のステータスボードは無条件に全て見ることができる。
だが、私のように見せなければ他人のステータスボードを見ることはできない。
では、自分のステータスボードを見てみろ。』
【 名 前 】 ショウスイ
【 年 齢 】 3
【 職 業 】 異世界に紛れ込んだ動物
【 レベル 】 7
【 体 力 】 300/300
【 魔 力 】 300/300
【 攻撃力 】 400
【 防御力 】 200
【 俊敏性 】 759
【 スキル 】 幻影LV.1 鑑定LV.1 アイテムボックス(最大LV)
【固有スキル】 最強種進化
【 加 護 】 なし
【 称 号 】フェンリルの意志を継ぎし者
…、これを見てもよくわからないです。
しかし、私は3歳なのですね。
もっと過ごしているように思いましたが。
目まぐるしく環境が変わってせいかもしれませんね。
『ふむ。問題なくできているようだな。
私にも見せてみろ。』
ステータスボードは目に見えているわけではありません。
薄い透明なものに書いているようなイメージが頭の中に浮かんできているという感じです。
頭の中に浮かんでいるステータスボードを見せろと言われてもかなり難しいと思います。
『えっと、どうやって。』
『念じればいいのだ。
ステータスボードを見せるように。』
念じるってどうやってですか。
何だろう。
唱える感じですかね。
ミエローミエロー。
『よしよし、見えた。
うん、大丈夫だな。
ちゃんと継承されている。』
適当ですが、こんな感じで大丈夫なのですね。
彼女の表情から若干嬉しそうに見えます。
本当に何が嬉しいのでしょうか。
私は継承したいわけではないのですけど。
『称号のことでしょうか?』
『その通り。
そして、最強種進化もその1つだ。
どの種になるか分からんが、これで進化が最終形態まで進むことができるからな。
さて、次はこの世界のことを話していく。
ちゃんと聞くのだぞ。
貴様が生きるためにはちゃんとした知識が必要だから。』
まず、この世界は7つの大陸からできており周りに小さな島があるそうで。
国や大陸の名前は良く変わるから思えなくてもよいらしいですね。
全ての名前は人間が名付けたそうです。
別に魔物は大陸の名称とかどうでもいいみたいですね。
そして、どの大陸にも魔物が存在しています。
その大陸によって個体差や種族、そして環境によって独自の進化を遂げている魔物もいます。
その多様な種族の他に人間もいます。
人間に関しても多くの種族に分かれます。
普通の人間、ドワーフ、エルフ、小人、巨人、獣人などです。
それぞれの種族は大枠であり、そこから枝分かれします。
本当に多様な人種が住んでいます。
人間の分類は2足歩行で会話ができる種族のことをいうみたいですね。
それにしても称号のことが気になります。
私が求めているわけではないとはいえ何かしらの意味があってでしょうからね。
しかし何かわかりません。
ステータスボードに何かが書いているわけでもありませんから。
『君が何かをしようと考える必要はない。』
彼女は私の方を見ながら話をしています。
少し寂しそうな顔になっていますね。
『そうなのですか?
そのために話をしているのだと。』
『称号というのは生半可ものではない。
運命として備わっているものもある。
君が私から称号を得たということは君が私の代わりに役割を果たすということだ。
どんなことをしようが、生きていれば必ず避けられない運命が分かる。
そのためにしっかりと生きろ。
そして強くなれ。』
『はい…。』
そんなことを言われても実感が湧かないです。
家でのんびりとしたいですが、この世界では通用しないような気がします。
そもそも家もないのでした。
あ、衝撃が大きすぎて忘れていました。
一番大事なことを聞いていません。
『ここに小さな男の子がいませんでしたか?』
『…小さな男の子か。
ショウスイが言っているのは人間か?。
見ておらんな。
ここに来ることができたのは君だけだ。
おそらく男の子は元の世界で過ごしているだろうと思うぞ。』
彼女は少し考えています。
私がここにいますから近くの草原にいるはずです。
彼女が見ていないのであればタカシ殿は来ていないということですね。
そっか、良かったです。
ヒロシ殿に合わせる顔がなくなります。
タカシ殿がこの世界にいるのであれば助け出す必要があると思っていましたから。
『よし、では実戦に入るぞ。』
すごく唐突です。
実戦っていうのは何でしょうか。
彼女の表情は真剣です。
『実戦?』
『そうだ。
今のままでは間違いなく君は死ぬぞ。
ここには魔物がいるのだから、魔物を倒すことができなければ死ぬことになる。
ずっと逃げ回るわけにもいかんだろう?
実戦は魔物を倒すための準備だ。』
逃げ回るわけにはいきません。
生きるためには魔物を倒すことからは逃げられないですからね。
教えていただけるのは助かります。
『そうですね…。具体的には何を?』
『魔法の訓練だ。
おそらく君の世界と大きく違うのは魔法も同じだと思ったのだ。
正直、魔力があったとしてよほどのことがない限り、人間が魔力というものに気が付いたと思えないのだ。
それこそ、魔力しか効かないような魔物がいない限り。』
正直、よくわからなかったけどそのまま聞いていました。
魔法というものが先ほどの雷であることは分かっています。
空が晴れているのに雷が落ちることなどほぼありません。
雨も降っていないですし。
前の世界と比べて何か空気が重いのはそのせいですかね。
この分からないとの事象が魔法ということだと思われます。
この能力というのでしょうか。
その魔法を私が使うことができるのでしょうか。
『魔法…、と魔力。』
『そうだ。
魔法を使うためにはまず魔力を掴む訓練からになる。
この世界にとって魔力というのは覚えるものではない。
感じるものだ。
この世界に居れば人間や強い魔物は絶対に魔力を持っている。
生まれてから徐々に分かっていくものだが、君は異世界で生まれているからな。
まず、私に触ってみろ。
今、私が前進に魔力を循環させている。
私に触ってみれば魔力というものがどんなものかわかるはずだ。』
…割と血だらけなので躊躇するのですが、彼女はそんなことはお構いなしです。
そもそも血に慣れていないのです。
なんかこう、あまり触りたくありません。
『何を考えておる?
早く来ないか。
私もあと1日しか指導できぬのだぞ。』
仕方ないでしょう。
触るのが躊躇するくらいに血がついているのですから。
彼女の怒っている姿は元気に見えます。
どうしても死ぬとは思えないから緊張感がなくなるのです。
それに彼女が信用できると判断したわけでもありません。
彼女は悪いことをしそうにありませんが、何かをするということは考えられます。
『触りに行きますが、変なことはしないでください。』
『するかアホ。
後、200年生きてから誘え。』
そもそもあなたは明日で死ぬので200年後にあなたはいません。
悪い意味で思ったのではありません。
純粋に無理だと思っただけです。
ちなみに私も200年なんて生きられませんよ。
『早く体に触れろ。
私ほどになると普通の循環が難しくなる。
完璧な魔力循環でできておらんからな。』
そうなのでしょうか。
それこそ基本は簡単だと思っていました。
彼女の周りの砂が少し舞い上がっていますから、異様なことであることは分かります。
しかし、彼女の体からは何も感じていません。
彼女の体に足で触れると思った以上の熱さに驚きます。
体温が高いのでしょうか。
そして、彼女の体の中から何かを感じます。
感覚としては全身の血が巡っている感じだろうか。
その血が動いているような気持ち悪い感覚です。
『ほう。
その表情だと魔力を感じ取ったか。
今、行っているのは魔力循環というものだ。
普段はこのように純粋な魔力だけを動かすようなことはしない。
魔法というのは魔力を体の外に出して変換する作業だ。
体の内に付与させる身体強化や属性強化などもある。
ただ、これはスキルと言った方がいいかもしれんな。
その証拠に私は使えん。
いろいろと考えてみたし、試しても見たがうまくいかなかったから。
そもそも体が弱い人間によくあるスキルだ。』
どうやら、身体強化や属性強化については人間の方が得意らしいです。
人間が魔物よりも体が弱いのが理由でしょう。
身体強化があれば魔物とも対等にわたりあえるかもしれませんから。
基本的に身体強化や属性強化ができる魔物は最初からできるそうです。
私はおそらくできないほうですね。
今もスキルが付いていませんでしたから。
しかし、魔法なんてものがあるとは思っていませんでした。
前の世界ではそのような物を聞いたことがありませんし、実体をない物は基本的に分かりませんでした。
まさか、私が使うことができるとは。
『魔法は便利ですが、注意すべきことはありますか。
話を聞いていると良いことばかりのように聞こえます。』
『そうだな。
まずは魔力には制限があるということだ。
私の魔力が減っているのが分かるか。』
【 魔 力 】 195000/200000
気になっていたのは注意すべきところです。
魔法も力なわけなので何かがあるはずです。
彼女の魔力は確かに減っていますね。
しかし、私の魔力の最大値よりも遥かに多い魔力を減らしているとは恐れ入ります。
彼女はどの程度の魔物に位置するのでしょうか。
私のステータスボードの数値がどの程度かもわかりません。
『先ほどステータスボードを見ましたが、あなたはどれくらいの強さなのですか?』
『私か?
私に会った最後の人族は私ほどの強さの魔物はいないと言っておったな。
魔物でも最上位に位置するとは思うぞ。
そもそも魔物で数百年の時を生きる魔物は少ないのだ。
もう1体くらいしか知らんな。
貴様に渡したフェンリルの意志もその魔物に直結しておる。』
そうですか。
最初に言った最強種進化というのが寿命にも関係しているのですかね。
『話を戻すぞ。
魔力がなくなれば魔法が止まる。
それになくなった瞬間に命を落とす。
だから魔力の総量を知っておくのは重要だ。
そんなに危険な魔法を使えるのはなんとなく魔力の限界は分かるからだ。
本能的に。
他の人族なども同じようにな。
戦闘中は命に関わるから本能を感じられないこともあるから魔法の使用で死ぬこともある。
戦闘に負けても死ぬから使うわけだ。
普通であれば無理に魔法は使わないだろ。
だが、大概は死ぬ前に気絶するはずだ。』
魔物も人間も生物全般が本能的に魔力の枯渇が分かるということですか。
魔力をようやく分かった私としては信じがたい話です。
ただ、彼女は長く生きていますのでいろんなものを見ています。
信じても問題ないでしょう。
練習すれば大きく伸びるものなのでしょうか。
彼女からの魔力操作で少し体の中に何かがあるのが分かります。
『どうだ、なんとなく掴めたか。』
『体の奥底にあるものですかね。』
『君はそう感じるのか。
私はすぐそこにあるものだが。』
『もしかして、魔力が多いからではないですか。』
『そうかな…。
しかし、今までそのようなことは聞いたことがないな。
魔力というのは身近にあるものだから、自然と近くにあるはずなのだ。
君が異世界から来ているというのが関係しているかもしれん。
異世界で犬のような動物は初めてだろう。』
…、今の話だと人間はあるということになりますが。
『人間はこの世界に来ることがあったと。』
『そうだ。
しかし、同じ時期に2人はおらん。
1人が死んでからという感じでな。
定期的にだが、その異世界から来た者が死んでから100年後くらいの周期で来ている。
神々の目的がどうであれ、この世界を発展することに寄与するのであればよいことだ。
異世界人にとっては迷惑な話だろうが。
そして元の世界には帰れることができないしな。』
本当に迷惑だと思う。
今までの生活が最悪であれば、この世界に来てよかったと思うでしょうが、幸せな人は大変な思いをしたと思います。
私もできれば元の世界に戻してほしいのです。
『本当に元の世界に戻ることはできないのでしょうか?』
『そうさな。
出来ないことはないだろうよ。
だけど、この世界から出るのがどれほど無謀かわかるか。
どこに行くのかもわからんのに出てもな。
それに私の力でも無理だから果てしなく時間がかかる。
その上、魔力を枯渇するまで使わないことにはこの世界からも出ることができないだろうよ。』
そうですか。
少し残念です。
神というものが何か知りません。
しかし、身勝手な人たちだなと思います。
できれば、自分たちで何とかしてほしいです。
…、家族にはお世話になりました。
ここからは私の人生を生きていきます。
『わかりました。
この世界で生きていきます。
まずは魔法ですよね。』
『その前に君はどうしてこんなにしゃべることができるのだ?
普通であればしゃべるまでに時間がかかるはずなのだが。
異世界に来ていることが関係しているのか?
神々が何かするというのは聞いたことがないのだがな。』
私にはわかりません。
神というものを聞いたこともありません。
そういえばヒロシ殿はタカシ殿が生まれる直前に神社というところで祈っていましたね。
あれが神でしょうか。
しかし、どちらにしても神という存在は知りません。
『このように話をしているのは普通ではないのですか?』
『普通ではない。
魔物というものは人間の言葉を理解できる個体が非常に少ない。
その種族で一番頭が良くても人間の言葉を理解することはできても話すことまではできないのが普通だ。
君は非常にそういった意味で優秀。
こっちも楽ができる。』
そう言ってもらえるとすごく嬉しいですね。
ヒロシ殿も些細なことでよく褒めてくれました。
少し寂しいけれど、この世界でも仲間や守るべき人が居れば嬉しいです。
前の世界とはあまりにも隔たりがあるようです。
この世界で私はいったい何をするのでしょうか。