第1話
久々の新作となります。
コロナが落ち着いてきていますが、なかなか油断ができません。
ちなみに私はコロナのせいでコレステロール値が悪くなっています。
全てはコロナのせいなのです。
筋トレでヒイヒイ言いながら日々を過ごしています。
ステイホーム期間が続きますが、楽しんでいただけたら幸いです。
目が覚めると私が立っているところは草原です。
私の背丈ほどあるような草に少し硬い赤褐色の土の感触。
家には草原なんてありませんし、土も黄土色か茶色です。
明らかに家とは違う場所です。
土の匂いも違います。
周りを見渡しても家はありません。
…、タカシ殿…。
先ほどまで一緒に遊んでいたのにどこに行かれたのですか。
まだ、彼は小さいのです。
ようやくハイハイができるようになっただけというのに。
また怪我でもしたら大変です。
ですが、私と一緒に家の庭で遊んでいたはず。
私の散歩もまだ時間ではないですから、外に出たわけでもありません。
私につけていた首輪も外れていますから、何があったのでしょう。
ここまで何不自由なく生活できていました。
生まれて間もなく、ヒロシ殿に拾われて順風満帆に過ごしていました。
その後、サキ殿がヒロシ殿と一緒に住むようになりました。
ヒロシ殿は私のことを心配していましたが、大丈夫です。
サキ殿は優しい人です。
私が危害を加えることなどありません。
半年後に少しサキ殿に変化が現れました。
少し匂いが変わったというか。
数か月後に伴侶のサキ殿のお腹が膨れてきてようやく気が付きました。
サキ殿がヒロシ殿の子供を妊娠していると。
さら半年後にタカシ殿が生まれて、私はそのタカシ殿を守る役割となりました。
子供と言っても赤ちゃんのため目が離せません。
目を離した時には目の前にいないこともあるのですから。
最初はどうしても力加減を間違ってしまって、タカシ殿を泣かせてしまうこともありました。
その都度、サキ殿やヒロシ殿に怒られましたが、それでもタカシ殿は可愛く楽しく過ごしていました。
私もタカシ殿のうれしそうな顔を見て心が弾みました。
この見渡す限りの草原ではタカシ殿を探すのは難しいです。
そもそもタカシ殿は家から出ていないのにそのようなことになることがおかしいのです。
やはり何かあったと思うべきなのですが、そんなことどうでもよくて。
ともかく、タカシ殿を見つけなければ。
…、獣の匂いがします。
タカシ殿のことを何か知っているのかもしれません。
獣独自の嗅覚や情報は多くありますからね。
草をかき分けながら進んでいきます。
出てきたのは何でしょうか。
大きな牙を持った生き物です。
私も犬の中ではそれなりに大きかったと思いますが、この生き物は1.5倍くらいあります。
話しかけようとしましたが、どうやら食事中だったようです。
生き物が食べているのは大きな犬。
同族ではないようですが、この獣に対する嫌悪感が体の中を駆け巡る。
『そこの生き物、食べるのを止めなさい。
まだ、生きているでしょう。』
わずかに見える犬の腹の動きからまだ生きていることが分かります。
私に比べて頭のから鼻の形が少し前へ長く、白い毛を持った美しい生き物です。
畏怖すら覚えるような綺麗さです。
私の体格の4倍以上もあります
しかし、その体格故に年上のような気がします。
性別に関しては全く分かりません。
ただ、女の人のような気がしています。
僅かに私を見た生き物は食べるのを止めました。
そして、その生き物を見た時に体が硬直しました。
足が僅かに震えています。
怖さで体が動かないのでしょう。
目の前の生き物は皮膚の周りに草が生えています。
明らかに今までに見てきた生き物ではありません。
明らかに異物です。
怖さで頭がおかしくなりそうです。
何かが脳内で弾けました。
足の震えが止まります。
生き物が勢いよく突進してきますが、足が動いて横に動けます。
何とか避けることができました。
しかし、間一髪のタイミングでした。
私に何が起こったのでしょうか。
考えている余裕はないようです。
避けられたと思った生き物は旋回してきます。
再度突撃するつもりですね。
先ほどのよりも速いのでしょう。
避けることができるのでしょうか。
『聞こえるか、若者よ。』
ん、誰ですかね。
周りを僅かに見回すが、誰もいません。
生き物が旋回してきて、私の方を見ています。
今度は外さないとばかりの表情が怖いです。
『貴君に助けられた年寄りだ。』
すでに血で真っ赤に染まっている綺麗な生き物を見ると顔を僅かに動かしました。
目の前には牙を持った生き物が突撃しようとしています。
一瞬、気を逸らしてしまいました。
その瞬間に辺りが明るくなるようなものが生き物に落ちました。
近くにいた私は静電気が来て驚きました。
あのものは大きな雷だったのですね。
あまりのことに頭が固まってしまいました。
私はその場に座ってしまいました。
今までにこのような雷を見たことがないのです。
ものすごく怖いです。
『あなたですか?』
私は綺麗な生き物を見て恐る恐る話しかけます。
綺麗なのは綺麗なのですが、先程の雷が彼女の力ではないかと思っているため、非常に恐ろしいのです。
『そうだ。
私だ。
それよりも今だ、やれ。』
『えっと…。』
『もしかして魔物を殺したことがないのか?』
『はい。』
家で過ごしていた私にとって殺生に無縁の生活をしていました。
それこそ燕が落ちてきた時に匂いを嗅いでいるだけで怒られたものです。
いきなり目の前で殺せと言われてもできるわけがありません。
少し体が震えています。
『心配せずともよい。奴の首に歯を当てれば死ぬ。』
動くことがない生き物に首に牙で噛むと生き物の鼓動が止まったように感じます。
何かがなくなった消失感を生き物から見て取れます。
そういえば私は生き物の死を見たことがありません。
これが死という物ですか…。
少し寂しいような心に引っかかるような感じです。
『ふむ、ショウスイというのか。
こっちへ来い。
もう少しで私の寿命が尽きる。』
あれだけの血を流していれば当然ですか…。
しかし、優しそうな獣なのにあの生き物はひどいことをしましたね。
近くに寄ってみるとそこまで肉を噛み切られていません。
皮膚の上から少し部分だけかじっている程度ですか。
血がたくさん出ているのは他の血のようです。
表面だけであればこんなに血が流れることはありません。
倒した獣は結構噛んでいたのですが、それだけ皮膚が硬いということなのでしょう。
『いろいろと思うことはあるだろうが、私はもうすぐ死ぬ。』
『…、言われても困りますが、あなたは死にそうにないのに死にそうなのですね。』
怪我の度合いは別にして彼女の顔色は非常に良くないです。
このまま死ぬと言われて死ぬだろうと思うくらいには。
しかし、口調もしっかりとしていますし、毛並みもかなり状態が良いように思います。
『そう死ぬのだ。そして貴様が選ばれたのだ。
我の後継者としてな。』
『へっ?』
『異世界から来た者が選ばれるなど今までになかったことだが、そのおかげか今日1日猶予をもらえたらしい。
だからこそ、異世界から来たことを誰にも言ってはならぬ。』
『全く意味が分かりませんけど、分かりました。』
『ふむ、約束だぞ。
ではステータスボードを思い浮かべてみよ。』
ステータスボードとは何でしょうか。
本当にわかりません。
『なんでしょうか、それは?』
『ほう、ステータスボードも知らんのか?
貴様はいったいどんな異世界から来たのだ?』
『知りません。
私は人間の主人に仕えていただけなので。』
『…、家畜であったのか?』
『いや、ペットだと思います。』
『…ふむ。なんとなくわかってきた。
先ほどのあのような獣を見たこともないのだな。』
『はい。」
『よし。
では、これから説明に入るぞ。
何1日あるからの大丈夫だ。』