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第七異能学園の帰還者  作者: 名無しの権兵衛


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ホンマ、ごめん。セクハラしてるのは真実なんや

 仮想空間から退場した桃子はVRマシンの中で膝を抱えていた。


「(はあ~~~。やってしまいました。いくら恨みを抱いていたとしても、流石にアレは失態ものですね。いえ、失態どころではありませんね。大失態です……)」


 くよくよしている桃子は、このままではいけないと頬を叩いて気を取り直すと、退場者が集まるモニタールームへと移動する。そこには退場した一真や戦闘科の生徒達がいた。

 桃子は彼等彼女等の顔を見て、少しばかり、いや、大分気まずくなり顔を逸らして椅子に腰かける。このモニタールームではシミュレータ内の様子が映し出されているので、先程の桃子のシーンはバッチリと見られていた。


 それを知っている桃子は合わせる顔がないと下を向いた黙っていた。


「(こういう時に読心能力は役に立ちますが……まあ、当然よく思われてないでしょうね)」


 初対面の響でさえもドン引きするようなことを仕出かしたのだ。同じようにモニタールームで見ていた者達も同じであろう。

 クラスメイトが目の前で倒されたというのに、驚愕や恐怖といった感情ではなく歓喜していたのだから。少なくとも異常者扱いは免れないだろう。


「(東雲さん。なんであんなに悲痛な顔してるんだろう?)」

「(……は?)」


 当事者である一真は桃子が何故落ち込んでいるのか全く理解していなかった。

 何故ならば、彼はモニタールームに来る前トイレにいたから。そう、一真は桃子が大失態をやらかした所を見ていないのだ。


「(もしかして、ワザと言ってます?)」

「(よっぽど酷い目に合ったんかな?)」

「(え? 本当に何も知らないのですか?)」

「(トイレ行ってたから何があったか知らないんだよな~。宮園さんか慎也か俊介にでも聞いてみるか~)」

「あ……」


 出来れば知ってほしくないと思った桃子は椅子から立ち上がってしまう。思わず伸びた手は一真を止めようとしていたが、彼女は自分にそのような権利はないだろうと自嘲めいた笑みを浮かべて、再び椅子に腰を下ろした。


「(浅はかな女ですね、私は。今回の一件で私はこの任務から外されるでしょう。下手をしたら懲戒免職かもしれませんね)」


 今回の一件は任務に支障をきたす恐れがあった。しかも、下手をしていたら一真を国防軍が秘密裏に監視していることが発覚するかもしれなかった。

 それを考えれば桃子の行動は浅はかであり、国防軍としての自覚が足りなかっただろう。


 彼女の言う通り、任務から外されるか、機密を守れなかったとして懲戒処分もあり得る。


「東雲さん。なんかあったん?」

「え…………?」


 自身に訪れるであろう未来を予想していたら一真が話しかけてきた。突然のことに上手く頭が回らなかった彼女は呆けた声を出している。


「いや、そんなに暗い顔して何かあったのかなと」

「(何を考えてるの?)」

「(ここで優しくして好感度アップ作戦や!)」

「(…………フフ。ああ、バカバカしい)」


 一真が紅蓮の騎士だと誰が想像できようか。これ程までに単純な思考をしている男が紅蓮の騎士な訳がない。

 度重なる脳内セクハラに腹を立てたが彼は普通の男子高校生より性欲旺盛で変態なだけ。

 それ以外は至って普通。学力は平均より下。それも入学前に三か月遅れなのが原因。運動神経は高校生にしては高い方だろう。だが、スポーツ選手と比べたら、そこまでではない。


「たった今、解決しました」

「え? そうなん? それならいいけど」

「(後で戦闘科の方に頭を下げにいきませんといけませんね。今回の事は流石に印象が悪いですし、人として最低でしたから)」

「(ちくしょう! 好感度アップ作戦失敗しました、艦長!)」

「(誰ですか、艦長って……)」


 艦長は一真が脳内で会議をしている謎の男である。無論、一真が生み出した架空の男であるが、そのような事は桃子には知る由がない。


 それから、しばらくして戦闘訓練が終了し、解散となった。


 その後、更衣室で着替えていた桃子の元に戦闘科の生徒が数名やってくる。アリスと香織、それから響が呼んでいた。

 彼女はその三人を見て察した。先程の訓練中に口走ったことが原因だと。


 言われるがままについて行く桃子。空き教室ではなく、自動販売機が置いてある休憩スペースに連れ出された桃子は、何故かアリスにジュースを奢ってもらっていた。


「えっと、あの、これは?」

「まあ、色々話したいことがあるからね。とりあえず、それ飲みながらにしようか」

「わかりました」


 アリスにそう言われて桃子はジュースを飲みつつ、三人と話し合う事になった。


「モニタールームでは聞けなかったけど、アンタなんで一真の事あんな風に言ったんだ?」

「……すいません。それは私の被害妄想です。彼の視線が厭らしく見えたので」

「まあ、確かにアイツも男だからそういう目で見ることはあるけどさ。流石にアレはないんじゃないか?」

「宮園さんと同じ意見ね。皐月君も他の男子同様にエッチな目をするけど、なるべく気づかれないように装っているわ。まあ、バレバレなんだけど」

「ウチはあんまし知らないけど、皐月っていう奴は別にそこまで変態じゃないんでしょ?」


 一真の事をあまり知らない響はアリスと香織に問い質した。その問いに対して二人は「そうだ」と首を縦に振る。

 それを見た響は桃子に視線を戻して、訓練中に口走ったセリフについて問い質す。


「で、二人はそう言ってるけど、そこの所どうなん?」

「お二人の言っている通りです。皐月さんは他の男性と大差はありません」

「言ってること全然違うけど?」

「あ、あの時は……」

「まあ、確かに男子からヤラシイ目で見られたら、そう思う時はあるけど、流石にアレはどうかと思うよ?」

「はい……」

「ま、ウチとしてはアンタが嘘つきかそうでないかを知りたいだけ。偶にいるんだよね~。嘘ついてウチら、戦闘科の生徒に嫌いな男子を攻撃させる女子って」


 力のない女子の賢いというか小狡い知恵である。他にも嫌いな女子には戦闘科の男子を騙して攻撃させたりと言う場合もある。こればっかりは学園側も対処が難しく手が出せないでいた。


「それは違います……」

「ふ~ん……。まあ、ウチはこれでいいけど、二人はどうするの?」

「まあ、なんでそう思ったかを聞きたいけど、被害妄想が激しいって本人が言ってるしな~」

「でも、アレはどうかと思うわ。正直、見てて不愉快だったもの。皐月君を知ってるから余計に」

「本当にすいません。貴女方の気分を害するような発言をしてしまい、申し訳ありませんでした」


 深々と頭を下げる桃子を見て三人は顔を見合わせる。彼女の処遇をどうしようかと。


「ま、ウチはそこまで怒ってないし、ただホントかどうか知りたかっただけだから、もういいよ」

「アタシも微妙な所だけど、一真が何も聞いてないし、知らないから今回の事は目を瞑るよ。ただし、このことを知った一真が少しでも気に病むようならアンタは潰すからね」

「私も宮園さんと同じ。今回は皐月君が知らないから、部外者の私達がどうこう言うのは違うと思う。でも、友達をコケにされたことは許さないわ」


 それぞれの意見を述べて彼女達は教室へと戻る。彼女達がその場から去るまで桃子は頭を下げ続けるのであった。


 ◇◇◇◇


 放課後。部活動に勤しんでいる者、委員会活動に勤しんでいる者など除いてほとんどの生徒が帰宅している中、桃子は用意されていた教室で彼女と同じく国防軍から一真を監視する為に潜入している麻奈美と雅文と顔を合わせていた。


 その空気はいつも以上に重苦しい。原因は分かっている。今回、桃子がやらかしてしまったせいだ。


「東雲。今回の件は上の方から連絡が来ている」

「上からはなんと?」


 恐らく、任務から外されるか謹慎、最悪懲戒免職だろうと予想している桃子。


「今回の一件については厳重注意と三か月の減給処分だ」

「え? それだけですか?」


 想像していた以上に軽い罰に桃子は雅文に聞き返す。


「ああ。これ以上はなかった」

「よかったね、東雲」

「え、あ、はい……」

「あ、もしかして、クビにされるかと思った?」

「はい。今回の一件は私の異能が露見してしまう恐れもありましたし、一般人を国防軍が秘密裏に監視していることも発覚される可能性もありましたから……」

「まあ、そうだな。俺も後々、映像を確認して肝を冷やしたよ」

「そうそう。何やってるんだ、あのバカは! って思ったわ」

「うぐ……。すいません」

「気にするなと言いたいが、今回の件で少しは頭が冷えただろう」

「そうだね。次は多分ないと思うから気を付けて行動してね」

「分かりました。以降、気を付けます」


 と言う訳で桃子の処分はなかった。

 そもそも国防軍としては桃子を手放す気はない。他人の心を読むという貴重な能力だ。手元に置いて管理しておきたいというのが本音であろう。交渉事、犯罪者への尋問、そういった方面においては無類の強さを誇るのだから。


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― 新着の感想 ―
本当に可哀想そうですね、彼女。対人の戦術兵器みたいな扱いをされている。イビノムに通じなくても、人間に対しては強い。まぁ、私としてはその枷をぶち壊すレベルの感情を持ってもらいたいですがね。彼女、中々ポテ…
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