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第七異能学園の帰還者  作者: 名無しの権兵衛


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地上げ屋じゃねえか!

 一真が各国を飛び回り、バリア発生装置を指定された座標に力技で打ち込んでいる頃、ハワイでは各国の首脳陣が集められ、倉茂工業が秘密裏に作っていた宇宙船へ搭乗していた。


「まさか、ハワイの地下にこんなものがあるなんてな~」

「申し訳ない、大統領! この戦いが終わったら、すぐにでも慰謝料を払います」

「いやいや、結構だ。地球の存亡がかかっているんだ。慰謝料を請求するなど無粋だろう?」

「ですが……」

「なら、こういうのはどうだ? 事が終わり次第、これを譲ってくれれば――」


 と、大統領が話している時、昌三が待ったをかける。


「お待ちください。いかに大統領といえど一真さんの許可なしにはこの船を譲る事は出来ません」

「む……。そうか。ミスター皐月の許可か」


 確かに昌三の言う通りだろう。

 一真が黙っているわけがない。

 しかし、逆に言えば一真さえ攻略できれば宇宙船が手に入る。

 しかも、今までにない高性能なものがだ。

 宇宙人の存在が証明された今、宇宙への進出を考えれば是が非でも手に入れるべきであろう。

 もっとも、まずは宇宙人をどうにかしなければならないが。


「ところで、この船の艦長は誰がするのかね?」

「本来であれば一真君なんですが彼は今、バリア発生装置を各国に配置している真っ最中なので我々の中から選ぶしかないかと……」


 この場にいるのは倉茂工業のクルーを含めた各国の首脳陣。

 誰もがリーダーに相応しく、口論が始まるかと思いきや、各国の首脳陣は顔を見合わせ、慧磨に白帽子を託した。


「わ、私にですか?」

「うむ。ここはアメリカだが……ここまでの全ては日本の成果だ。であれば、君しかいないだろう」

「お、おおお……」


 託された白い帽子。

 艦長席に案内されて慧磨は心が高鳴る。

 まさか、スクリーンの向こう側でしか見た事のなかった椅子に自分が座り、号令をかける事なるとは思わなかった。


「それでは時間もないようですので船の中の案内は発進してからしますね」


 そして、全員の視線が艦長に移る。


「……全速前進だ!」

「合点承知!!!」


 ノリのいいクルー達はビシッと敬礼すると宇宙船の離陸準備を始める。

 陸に残っているクルー達は海面のハッチを広げ、海底から宇宙船を浮上させる。

 深夜テンションのようなノリで作られているせいか、発進シーンを想定して壮大なBGMが艦内及びに基地全体に流れ始め、クルー達はテンションが上がりっぱなしだ。


「うおおおおおおおおおおお!」

「ついにこの日がやってきたか……」

「えへ、えへへへ~。かっこいいな~」

「夢見た光景が目の前に!」

「もうこの感情を言葉で言い表せれない……」

「今日死んでも悔いはない」

「チキンブリトーを持ってこい!!!」

「ケー・エフ・シーじゃダメかな!?」


 海面ハッチが開かれ、天高く舞い上がっていく宇宙船を見ながらクルー達は手を振り、涙を流しながら戦士達の帰還を祈る。

 ハワイ島の基地で宇宙船が大空へ向かって飛んでいく姿を眺めるクルー達は感動で心が一杯だった。


「しかし、不気味だな……」

「何がだ?」

「向こうはあれだけの戦力に加えて、こちらの想定をはるかに上回る技術がある。であれば、我々が宇宙船で向かって来ている事くらい把握しているはずだ。だというのに、何の動きもない」

「そう言われるとそうですね。向こうには圧倒的なアドバンテージがあるというのに」

「強者ゆえの余裕か。それとも……」


 何かがあるに違いない。

 だが、それが何なのかは分からない。

 実際に会ってみない限りには何も分からないのだ。

 果たして、話し合いに応じてくれるかどうかが鍵となる。


「閣下。地球から一隻こちらへ向かって来ていますがいかがいたしますか?」

「一隻だけか?」

「はい。地球全体にスキャンしたところ、あの船のみです」

「伏兵はなしか……。交渉にでもやってきたか?」

「分かりませんが通信チャンネルをオープンにしますか?」

「そうだな。向こうが素直に降伏してくれれば有難いのだが……」

「難しいでしょうね。我々は侵略者ですから」

「だろうな。チャンネルをオープンに切り替えておけ。内容によっては……あの船を撃ち落とす」


 地球の存亡をかけた話し合いが始まろうとしていた。

 その頃、一真は深海でバリア発生装置を力技で突き刺している最中だ。

 宇宙では慧磨をはじめとした首脳陣が宇宙人と交渉している中、海中のイビノムと戦い、新型のイビノムに遭遇し、沈没船を探検してお宝を発掘したり、海底遺跡を発見して一人で盛り上がっていた。


「さて、こちらの呼びかけに応えてくれるだろうか……」

『聞こえているとも』


 敵船に呼びかけていた慧磨はマイクを握り締めて返事を待っていたら、唐突に通信が繋がり、驚いて危うくマイクを落としそうになった。


「こちらの呼びかけに応じてくれて感謝する。私は――」

『知っているとも。君達の事は』

「そうか。それなら手間が省ける。そちらの目的を教えてもらいたい」

『見れば分かると思うが、敢えて言わせてもらおうか』


 ほんの少しだけ溜めてから閣下は次の言葉を慧磨達に送る。


『地球の侵略だ』

「やはりか……。出来れば理由を聞きたい」

『ふむ……。どう説明すればいいか……。そうだな、新しい住居をお客様に提供していると言えば分かりやすいだろうか?』

「それは我々の所で言う不動産業に近いな……。スケールは桁違いだが……」


 宇宙人の目的は地球を他者に譲る事。

 その為に、まずは地球を支配し、全権を握ろうとしていた。


『不動産業か。成る程、言い得て妙だ』

「目的も理由も理解した。では次に聞きたいのだが」

『いいだろう。どうせ、これで最後なのだ。私が知っている事であればなんでも答えてやろう』

「では……イビノム、いや、地球に降ってきた謎の生命体は貴方達の仕業か?」


 もう数百年以上も謎だったイビノムの存在。

 ある日、宇宙から降ってきた災いの正体は何だったのか。

 それの手がかりを持っていそうな宇宙人が目の前にいるのだ。

 慧磨は先程の不動産業の話を思い出し、イビノムの存在がどういうものなのかをうっすらとだが予想している。

 知りたくないが聞いておかねばならないと慧磨は腹を括って問いただした。


『そうか。お前達はアレの正体を知らないのか』


 まるで憐れんでいるかのような声色に慧磨は怒りを覚える。

 相手の言いようで確信したのだ。

 イビノムを地球に放ったのは目の前の宇宙人だという事が。

 一体どれだけの犠牲者が生まれたと思っている。

 どれだけの苦しんだか、数え切れいない程の悲劇があったのか、それを教えてやりたいと慧磨は拳を握り締めて閣下の言葉を待った。


『アレの名称は惑星環境整備生物型兵器だ』

「惑星環境整備……! 地球を売る為に環境を変えたというのか!」

『当り前だろう? お前達とて前の住人が残したものは不要だろう?』

「ッ! ふざけるな! そんな事の為に!」

『別にふざけてなどいない。我々は商売をしているだけだ。それの何が悪い?』


 宇宙人達に罪の意識はない。

 自分達は真っ当な商売をしているだけで文句を言われる筋合いはないと主張している。

 その事に腹を立て慧磨は怒鳴り声をあげるが宇宙人からすれば見当違いもいいところだった。


『お前達も新しい住処が汚れていれば怒るだろう? 我々は顧客に満足して貰う為に掃除し、お客様に買ってもらえるよう努力しているだけだ』

「そこに生き物がいると知っても同じような事が言えるのか! こうして同じように言語を理解し、感情を伝える事が出来る生物がいても同じ事が言えるのか!!!」

『勘違いするな。我々も常識を知っている。お前達の言うように先住民が暮らしているのなら考慮はする。だが、それは星間連盟に登録されている星ならばの話だ』

「なに……?」

『簡単に言えば我々からすればお前達はその星に住んでいる害虫だという事だ』

「が、害虫だと……! ふ、ふざけるのも――」

『先程から勘違いしているようで困るが主導権はこちらにあるのだよ。まさか、その一隻だけで我々と戦うつもりだったのか? だとすれば、随分と笑わせてくれる。お前達は戦力というものを理解していないのだと』

「そんな事は重々承知している! だが、それでも戦わねばならない時があるだろう! 今がその時なのだ! 我々の故郷を、星を、奪われてたまるか!!!」

『素直に降伏をしていれば奴隷として扱ってやったのだが……残念だ。お前達は見せしめとして盛大に葬ってやろう』


 ブツリと通信が切られ、静寂が艦内を支配する。

 慧磨は啖呵を切ったのはいいものの、戦力差は目に見えている通り。

 大艦隊に対して、こちらはたった一隻のみ。

 一真と倉茂工業が作り上げた宇宙船ならばそう易々と撃墜はされないだろうが、勝てるかと言われれば厳しい。


 何せ、自分達の背後には地球があるのだから。

 守りながら戦う方が圧倒的に不利なのだ。

 一真がバリア発生装置を設置しているかどうかで話は変わってくる。

 話し合いで時間は稼げたが、果たしてどこまで配置は完了したのだろうか。


「……艦長! 感動しました! 先程の啖呵は実にお見事でした! 私はもう涙で前が見えなくなりそうで」

「熱い、熱いよ~。あれが漢なんだ~」

「よがっだ、よがっだ~。この船に乗ってよがっだ~」

「映画のワンシーンを見てるようだった……」

「テンション上がりますね~」

「胸がキュンキュンするよ~!」

「ひゅ~、最高だぜ、艦長!」

「一生ついて行きます!」


 止まらない艦長コール。

 先程の啖呵がクルー達のハートを刺激したのだ。

 弱気になっていた慧磨はクルー達のはしゃぎようを見て呆れるように笑った。


「ああ、そうだな……。こういう展開は誰だって夢見てきただろう。諸君! 私達が人類の希望だ! 私達が地球の平和を取り戻すのだ! 愛する者を守る為、命を賭けて戦おうぞ!」

「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」


 ノリが分かっている慧磨にクルー達は大熱狂だ。

 敵は大艦隊。こちらは一隻。

 シチュエーションは完璧だ。

 クルー達は惜しみなく全ての兵装を使って決戦へ赴く。

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