ど、どこから出てきたんだ!?
守りを固め、警戒する以外は何も出来ないので普段通りに過ごしていた一真達。
「そういえばあの子達は放っておいていいの?」
「あの子達って?」
「アリシアとシャルロットの事ですよ」
「あ~、一応、パワードスーツもあるし、使い魔も護衛につけてあるから問題ないと思う」
「どんな使い魔をつけてあるの?」
「ハムスターとモモンガ」
「チョイスが微妙ね~……」
「別にいいだろ……」
魔法使いと聞けば黒猫が最初に思い浮かぶのではないだろうか。
とはいえ、それは日本人だけかもしれないが。
「安全なんですか?」
「危険が迫った時は俺に知らせが来るようになってるし、並大抵の相手なら完封出来るくらい強いぞ」
「ハムスターとモモンガがね〜……」
ちょっと想像出来ない。
ハムスターとモモンガが悪者相手に無双してる光景はあまりにもシュールだろう。
「貴方の知り合いで他に使い魔をつけている方はいるんですか?」
「いや、いない。クラスメイトに関しては近くにいるからすぐに対応出来るし、母さん達に関しては強化版のお守りを渡してるから特に問題はないはず」
「なるほど。では、守りに関しては徹底してるわけですね」
「まあ、絶対ってわけじゃないけどね」
少なくとも一真がお守りを渡した相手はたとえ襲われたとしても、すぐに殺されたりはしないだろう。
であるなら、使い魔を護衛に回しておく必要はない。
無論、死んでほしいからという訳ではない。
単にリソースの無駄であるのと一真の負担が増えるからだ。
いくら勇者の一真といえど自分だけでなく複数の人間を守る為に二十四時間ずっと気を張っているのは流石に疲れるだろう。
「皆が一か所に集まってくれるならいいけども」
「それぞれ事情があるから無理ね~」
「ですね。アリシアやシャルロットも忙しい方々ですから」
そういう訳で一真は自分の中で決めている優先順位に従って使い魔で護衛し、お守りを渡して最低限の守りを固めていた。
「よし! 倉茂工業に遊びに行こう!」
「出来る事がないのは分かりますが私達が行く必要性は皆無では?」
「十分、資金や物資は渡してあるんだから私達は何もしなくていいじゃない」
「嫌だ! 俺だっておもちゃを作りたい!」
「兵器の事をおもちゃって言うのはやめてください……」
非常事態かどうかは置いておいて相変わらず緊張感の欠片もない一真に桃子は残念そうに頭を抱えるのであった。
◇◇◇◇
某時刻、キング、覇王、太陽王、そして神藤真人の前に宗次を襲撃した不審者と同じ格好をしている者達が立っていた。
「おいおい、マジかよ。出待ちはパパラッチだけで十分なんだがな~」
「ふむ……。戦闘力は3000か。この星の生物にしては中々やるな」
「ん~? 声が小さくて聞こえないんだが~?」
白いローブに全身スッポリと包んでいる目の前の不審者が何やら喋っているようだが声が小さすぎて聞こえず、キングは大袈裟に体を曲げて耳を近づけるフリをしている。
完全に相手を舐め腐っているような動きだが不審者はキングの意図を理解しておらず、腹を立てるような事はなかった。
「未成熟な文明の生物がどこまで持つか見ものだな」
「お? やる気になったのか?」
目の前の不審者は白いローブを脱ぎ捨てると、特撮ヒーローのようなピチピチのボディスーツを身に纏っているのを見てキングは笑いを堪える事が出来なかった。
「ブハハハハハハハハッ! これから撮影でも始めるのか! そいつは最高だな! でも、カメラはどうした? どこにも見当たらないぞ?」
「通訳装置起動。これでこちらの言葉が分かるか?」
「お、おお! なんだ! ちゃんと喋れるじゃないか! てっきり、照れ屋さんなのかと思ったぜ」
「お喋りな生き物だな、お前は」
「話し合いは大切だろ? お互いの事をよく知る為にはさ」
「話し合い? ハハハハハ、おかしな事を言う。私とお前では生きている世界が違いすぎる。話し合いなど無用だ。お前は……ここで私に殺されるのだから」
「ヒュ~、そいつは勘弁願いたいぜ!」
先に動いたのはキングだ。
地面が陥没する程の踏み込みで一気に不審者へ距離を詰めて顔面を殴りつける。
パシッと乾いた音が耳に届いたかと思うと、目の前の光景にキングは目を見開く。
「なんだ? この程度か?」
本気ではないが、そこそこ力を込めてぶん殴ったのだ。
キングは拳を簡単に受け止められて、僅かに動揺するがすぐに冷静さを取り戻し、後ろへと下がった。
「こりゃ冗談じゃねえかもな……」
「言っておくが……お前では私には勝てんぞ。お前の戦闘力は3000。そして私は……15万だ。どうだ? 絶望したか?」
「戦闘力が全てじゃないだろ!」
バッと手の平を不審者に向けるとキングは雷撃を放つ。
空気を引き裂き、青白い稲妻が駆け抜け、不審者へとぶつかる。
キングが放った雷撃は不審者の体を突き抜け、完全に決まった。
「今、何かしたか?」
「ッ……!」
この瞬間、キングは悟った。
自分では勝てない。
戦闘力が全てではないと豪語したが、どうやら事実であったらしい。
最強だと自負しているがキングは初めて戦闘を放棄し、生き残るために逃走を選んだ。
「なるほど。流石に力の差を理解したらしい」
猛スピードで空を逃げていくキングに不審者は生物として正しい判断だと褒めるが、殺す事に変わりはない。
「ハハ……。流石の俺もこれは予想外だぜ」
空を飛んでいたキングの目の前には先程の不審者が佇んでいた。
両腕を組んでこちらを見下すようにしている不審者にキングは冷や汗が止まらない。
恐らく、反対方向に全速力で逃げ出したとしてもすぐに先回りされるだろう。
もう逃げる事は不可能で、本当に殺されるかもしれないとキングは諦めたように息を吐いた。
「どうやら、覚悟が決まったようだな」
「ああ。俺じゃ逆立ちしても勝てそうにない。もう諦めるしかないだろ」
「潔い事だ。では、死ね」
「だが、俺より強い奴ならどうかな!」
念のためにと一真から渡されていたお守りを握り締めるキング。
するとキングの周囲に結界が張られ、不審者の攻撃を防いだ。
「何っ!?」
そして、何もない場所から白銀の騎士が姿を現し、不審者と対峙する。
「なっ!? いったい、どこから!」
「ひゃっほう! 流石、一真だぜ! そいつは敵だ! ぶっ飛ばしてくれ!」
キングの言葉を聞いて白銀の騎士はサムズアップすると不審者に向かっていく。
突然、現れた白銀の騎士に戸惑いを隠せない不審者であったが、すぐに戦闘力を計測して脅威かどうかを調べた。
「戦闘力5!? なんだ、ただのゴミか」
驚いて損した、と言わんばかりに肩を竦めると、不審者は落ち着きを取り戻す。
戦闘力5など赤子にすら劣るゴミ以下の存在であると馬鹿にして不審者は白銀の騎士の攻撃を何の防御もせずに受け止める事にした。
キングの攻撃すら全く効かなかったのだから、当然の反応であるのだが、残念な事に白銀の騎士は別物である。
「ぐはぁっ!? な、何故?」
頬をぶん殴られてよろける不審者は困惑している。
キングの攻撃は何一つとしてダメージがなかったのに、どうして白銀の騎士の攻撃は効いたのだろうかと。
「まさか、異能か!?」
すぐさま不審者は白銀の騎士を検査する。
白銀の騎士の後ろにいるキングの異能は剛力無双、高速飛行、雷撃と表示れ、目の前に立っている白銀の騎士からは置換が表示された。
「はあ?」
訳が分からない。
置換は物と物の位置を入れ替えるだけの能力で、決して攻撃力を高めたりだとか、身体能力を向上させたりだとかはしない。
その事をよく知っている不審者は機械の故障かと思い、何度も白銀の騎士を検査するが出てくるのは置換のみ。
そして、戦闘力は相変わらず5としか表示されていない。
「そんなはずは……」
たかが戦闘力5のゴミに負けるはずがない、そう思っていたのにふたを開けてみれば負けそうになっているのは自分だ。
目の前で起こっている現実を拒みたくなるのも無理はないだろう。
「へぶぅっ!?」
顔面が陥没するくらいの一撃を受けた不審者は地面に落ちていく。
このまま落ちれば命はないだろうと思われたが、地面に当たる寸前のところで白銀の騎士にキャッチされた。
「殺さないのか?」
不審者を助けた白銀の騎士にキングは問いかける。
白銀の騎士はこくりと頷いて、不審者を殺さず、拘束するのであった。
 




