プロローグ
ある日、ある時、地球に宇宙から災厄が飛来した。所謂、宇宙人の襲来である。正確にいえば未知の生命体だ。後にイビノムと名付けられる。
イビノムの身体はまさに未知であり、現存する兵器では殺すのが非常に困難であった。しかも、尋常ではない数が存在する為、人類に勝ち目はない。
最初にアメリカが敗北すると、ロシア、中国、イギリスと続き世界は破滅へと向かっていく。
しかし、抵抗を続けていたアメリカの軍隊がイビノムを倒した際に隊員の数名がイビノムの体液なのか血液なのかは分からないが、それを浴びてしまう。
イビノムの体液は人体に大きな影響を及ぼした。体液を浴びた数名はほどんどが死に絶えてしまったが、残った者にはある力が宿った。
現代科学では証明する事の出来ない特殊能力である。
体液を浴びて生き残った隊員に摩訶不思議な力が宿っており、手から炎が噴き出し現代兵器では殺すのが困難であったイビノムをあっさりと燃やし尽くしたのだ。そして、他の隊員は冷気を操りイビノムを凍らせる。さらには念力でイビノムを引き裂く隊員もいた。
この報告に人類は歓喜したが、同時にどうするべきか悩む事になった。イビノムの体液を取り込めば特殊能力を身につけることが出来る。だが、それは賭けでもあった。なにせ、数名の内、何人かは死んでいるのだ。
それはつまり、適合するかどうかということ。適合しなければ死ぬ。適合すれば特殊能力を得る事が出来る。
どうするかを悩んだ結果、イビノムという脅威に晒されている今生き残るにはイビノムの体液を取り込むしかないと決断する。
イビノムによって減らされた人口が更に減る事になってしまったが、人類は新たなる力を手にした。特殊能力に目覚めた新人類は快進撃を見せてイビノムを殲滅する事に成功した。
だが、それで終わりではなかった。イビノムの体液は人類以外にも影響を与えていたのだ。植物から昆虫に至るまでの生物が進化を遂げていた。それが厄介な事に凶暴性を増しており人類に攻撃的な存在となった。
流石に全てを相手にする事ができないと判断した人類は街などに防衛装置を作ることにして、生存圏を確保するのであった。
それから、月日は経ち、一人の少年が日本に作られた特殊能力者を育成する機関に入るところから物語は始まる。
「ついに今日から俺もここの生徒か~」
少年が見上げる先にはとても大きな校舎があった。そこは第七異能学園。日本が誇る異能者教育機関の一つである。
そんな第七異能学園に入学する事が決まった少年は期待に胸を高鳴らせて、これから始まる新たな学園生活に興奮していた。
「さあ、行く――ぶべらぁっ!」
横断歩道を渡ろうとした瞬間、横から猛スピードでトラックが突っ込んできて少年の意識はそこで途絶えた。別の意味で少年は逝くことになったのである。
しかし、そこで終わるはずだった少年は幸運なことに異世界に召喚されたのだった。
それからの少年の人生は壮絶なものとなる。
いきなり、剣と魔法のファンタジー世界に召喚されて魔王討伐の命を受ける事になり、過酷な訓練を毎日課されて、それが一年にも及んだ。
一年に及ぶ戦闘訓練を受けた少年は僅かな資金と少ない仲間を元に魔王討伐の旅へ出る事になった。
旅は過酷を極め、多くの村を町を国を救い、幾度となく強敵と戦い続けた。何度も死にそうになりながらも少年は二年の月日を掛けて魔王を討伐することに成功した。
「勇者よ。よくぞ魔王を討伐してくれた。お前には褒美を取らそう。望むなら元の世界にも帰そう」
「え? 帰れるのですか?」
「うむ。元々、召喚と送還の魔力があったからな。お前が望むならばお前を元の世界に帰すが、どうする?」
少年はそれを聞いて悩む。確かにこの世界も悪くはないが元の世界に比べたら不便な事が多い。しかし、一つ気がかりなのは自分がトラックに轢かれて死んだことだ。
もしも、元の世界に戻っても死んでいたら意味がない。ならば、どうするかと悩んだ少年は聞いてみる事にした。
「あの国王陛下。私は元の世界では死んだことになっているのではないでしょうか?」
「それならば問題はない。恐らく生きているだろう」
「そうなのですか?」
「そうとも。死んでいる者を召喚は出来ないからな」
「なるほど……」
それならば戻ってもいいかと軽く考えた少年は戻る事を決めた。
「では、元の世界に戻していただきたいです」
「よかろう。すぐに準備を始めよう」
それから、しばらく少年はこの世界で関わってきた人達にお別れの挨拶をして回った。中には女性もいたが残念な事に少年のことを慕っている者はいなかった。嫌われていないだけマシかと自分を慰めて少年は関わった人達全てにお別れの挨拶を済ませる。
そして、送還の準備が調ったというので少年は元の世界へ帰る事になる。たった三年という長いようで短かった少年の異世界生活は終止符を迎えた。
元の世界へ戻った少年が目を覚ますと、病院のベットに寝かされ人工呼吸器を付けられていた。どういう状況なのかさっぱりわからない少年であったが、たまたま巡回に来たであろう看護師と目が合った。
その後、医者が来てどういう状況なのかを説明してくれた。どうやら、少年はトラックに轢かれて重傷を負ったらしく意識不明の状態だったらしい。
そこまで聞いて少年は異世界での出来事は夢だったのかと疑問を抱く。一人になった病室で少年は魔法を唱える。すると、手の平から火の玉が現れて少年は確信する。
「夢じゃなかった……!」
こうして少年は元の世界である日本に異世界で三年間培った魔法と経験を手にして戻ってきたのである。
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