13
「僕、結構楽しみだなー!」
「呑気なやつめ」
水の色を確かめながら、ウルカはコップの縁に口を付けた。冷たい感触が、徐々に伝わってくる。
「ウルカだって、楽しみでしょ? 何たって、あのオルアン家が絶賛する腕なんだから!」
「別に。食にはあまり興味がないしな」
「何だよ、気分下がるなぁ」
時代は飽食だが、かつては食べられるということが第一だった。ティオは時代の流れに上手く順応している節があるが、ウルカはそうでもない。カフェインには嵌ったが、後は特段興味がない。パンさえあればそれで良いというタイプなのだ。
「食べられれば、それでいいだろ」
「ウルカはフェアリーだから、そういうこと言うんだよ」
「……どういうことだ?」
ティオのセリフに、ウルカは首をかしげた。
「フェアリー族ってさ、昔は花の蜜とか吸ってたんでしょ? だから食に興味が薄いって……」
「……俺がいつ、そんな話をした?」
呆れたような顔をすると、ティオは「えっ? 違うの?」と口にした。
「花の蜜程度で、腹が満たされるわけがないだろう。標準体型だった俺の兄だって、おまえより少し小さいぐらいだった。食生活は普通のエルフと大して変わらん」
「えー? じゃあこれ、誤情報だったの?」
そう言って、ティオはあからさまに残念そうな顔をする。気に食わないといった感じで、コップをゆらゆらと揺らし始めた。
「誤情報? 誰かから聞いた話なのか?」
「いや、ウルカってさ、あんまり昔のこと話してくれないでしょ? そのことをライチに話したら、『とっておきの情報聞かせてやるから銀貨三枚くれ』って言われてさー。それで、この話をされたんだよ」
「……」
ライチの妄想に金を払った彼。ウルカは少々可哀想な気持ちになってきた。
「……今度からは、もう少し昔話もする」
ウルカがそうつぶやいた途端、ティオはぱあっと明るい表情を浮かべる。
「本当!? じゃあ、好きだった人のこと教えて! ウルカって、どんなタイプの異性が好きなの!?」
(……鬱陶しいな)
ティオはテーブルから身を乗り出して、ずけずけと恋愛事情を尋ねてくる。昔話をすると言ったばかりだが、ウルカは早くも前言撤回したくなった。




