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先ほどの女性が言った通り、村からひたすら真っ直ぐ歩いたところに、例のレストランはあった。
「あそこだな」
ウルカはポツンと佇むその建物に近付き、辺りの様子を見回した。かなり大きな、二階建てのレストラン。こじゃれたデザインの窓が、店内に光を取り込んでいる。
裏側に回り込むと、そこはテラス席になっていた。大木が何本か植えられているが、きっと夏には緑を茂らすのだろう。ガラス張りの出入り口は、隙間がほんの少しだけ空いている。
「……誰も、いないのかな?」
店内の様子を覗き込んだティオが、小さく首をかしげた。裏から見た感じ、店内に客の気配はない。立地のせいか、はたまたターゲット層のせいだろうか。
「とりあえず、中に入るぞ」
腰を屈めていたウルカは、そう言いながら立ち上がる。ゆっくりと外周を確かめながら、二人は再び入り口へと回った。
「いらっしゃいませ!」
装飾が美しい扉くぐると、赤いポニーテールの女性が爽やかな笑顔で出迎えてくれた。スラリとした体形に、シンプルな白いエプロン。その下の動きやすそうな格好を見るに、彼女があのイリアだろう。
「僕たち、近くの村の人から紹介されて来たんですー」
ティオも負けず劣らずの笑顔。すでに、演技は始まっている。
「そうなんですか! ようこそ!」
そう言いながら、彼女は二人を窓際の席へと案内した。日当たりの良い、いわゆる一等席だ。
「少々お待ちください。今、お水とメニューをお持ちしますから」
イリアが去っていく姿を確認した途端、ティオは真面目な顔になってウルカの白い瞳を見つめてくる。
「この店、あれしか店員がいないのかな?」
「分からん。奥にいるのかもしれないな」
戻ってくる赤いポニーテールの動きを見つめながら、ウルカは適当に答えた。茶色の表紙が机の上に置かれ、隣に透明な水が添えられる。
「わぁー! 選べるメニュー、多いですねー!」
目の前のティオが嬉々とした声を上げているが、おそらくこれは本音だろう。
「おすすめの料理とかありますか?」
「オムレツとパンのセットが、一番人気ですね!」
イリアの明るい声色を聞きながら、ウルカは紙に目を落とす。料理名の横に可愛らしいイラストが描かれているが、これは店員が描いたものなのだろうか。
「じゃあ僕、それにします!」
「俺も、そうさせてもらおう」
「はーい!」
彼女は満面の笑みで返事をすると、そのまま奥へと消えていった。頭部の黒いリボンの裾が、風とともに右に折れる。




