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その村には、簡素な家が何軒か建っていた。ところどころ畑も見え、自給自足が成り立っていることが伺える。
しかしウルカたちは、もう一つの大きな特徴を捉えていた。それは、村中に張り巡らされた、大小様々な赤色の魔法陣だ。モンスターの侵入を防ぐものであることは分かるが、そもそも魔法陣を地上に留めて置くことなど、並みの魔術師にはできないことなのだ。
「……」
まじまじと魔法陣を見つめるティオ。人間や亜人には反応せず、モンスターにだけ攻撃を仕掛けるものらしい。
(……村の住民が仕掛けたものではないな)
ウルカにはすぐ分かった。この非常に繊細な魔法陣。ひとしきりの勉強を終えた者でなければ、絶対に生み出せない代物だ。
「あのー、すみませーん!」
ティオも同じことを考えたのだろう。彼は近くで農作業をしている夫婦に、親しげに声を掛ける。
「この魔法陣って、誰が作ったんですか?」
「ああ、それはね、冒険者のイリアさんが設置してくれたものだよ。ここの近くのレストランで働いていて、ちょくちょくこの村にも顔を出してくれるんだ」
親切な性格の男性が、汗を拭いながら丁寧に説明してくれる。女性の方も優しげな顔立ちで、二人に向かってにこにこと微笑んでいた。
「へぇー! イリアさんって人、すごい冒険者なんですね!」
「そうみたいだね。僕は詳しく知らないんだけど、カウラナっていう組織から認められた人らしい」
カウラナ。世界中のギルドを統括する組織。そこが認めた冒険者となると、かなりの実力派だ。
「……そうなんですか。ありがとうございます」
一瞬トーンを落とし掛けたティオだったが、すぐさまにっこりとした笑みを浮かべ、夫婦に向かってお辞儀をした。
「あなたたち、冒険者よね? 良かったら、イリアさんのいるレストランに寄ってみて。ジークさんって人が料理を作っているんだけど、とっても美味しいのよ! この先にあるから、真っ直ぐ歩いていれば着くわ」
女性はそう言うと、うっとりとしたような表情を浮かべた。どうやら、思い出すだけで胸の高鳴る絶品のようだ。
「わぁー! レストランですか! ちょうどお腹空いてるんで、寄ってみます!」
「ええ、ぜひそうしてみて」
大げさなリアクションを取った後、ティオはウルカの近くに帰ってきた。その表情は、少し陰っている。
「カウラナに認められた冒険者がいるってさ。面倒だね」
「ああ。なるべく手を合わせたくない相手だな」
ウルカとティオはひそひそと話し合いながら、村の奥へと進んでいった。時刻は午後に差し掛かり、光に照らされた雲がゆっくりと空を流れている。




