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ウルカとティオが乗合自動車を降りる頃には、他の乗客はすっかりいなくなっていた。それもそのはず、このような辺鄙なところ、迂闊に足を踏み入れたら死にかねない。
「お嬢さん、冒険者? こんなところまで来て、ダンジョンにでも潜るつもりなのかい?」
「そうなんです。ギルドに依頼されちゃってー」
「それはそれは、大変だねぇ」
「騎士さんも、乗り合いお疲れ様です」
乗降口で会話を始める、熟練騎士とティオ。完璧な女装で、上手く騎士を騙せている。
「もう行くぞ」
先に降りていたウルカは、いつまでも喋っていそうな二人に声を掛けた。あまりボサボサしていると、目的地に着くより先に、モンスターに遭遇してしまう。
「じゃあ、僕はこれで」
「お嬢さん、頑張れよー!」
ぺこりと頭を下げて降りてきたティオは、どことなく嬉しそうな顔をしている。「お嬢さん」という呼ばれ方が、気に入ったのだろうか。
「目的地はどこなの?」
「この村を抜けた、その先だ」
ウルカの指差す方向には、ひっそりとした集落がある。ここもかなりの田舎だが、ジークが営むレストランは、更にその先にあるらしい。
「えー、もっと奥なの? 僕、もうお腹空いちゃったよー」
「我慢しろ」
ティオが「せっかくなら、そのレストランで食事してみたくない?」と言い出したので、この計画になったのだ。文句を言われても、ウルカにはどうしようもない。
「さっさと村を抜けるぞ」
不満を露わにしているティオにそう言い捨てると、ウルカは速足で歩き始めた。この集落さえ通り過ぎてしまえば、目的地はそう遠くないはずだ。そう思いながら、彼らはモンスターの方が多いであろう土地を進んだ。




