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メレ国の辺境の地というと、モンスターの巣窟として有名な場所だ。ドラゴン族やアンデットは基本的にダンジョンを住処としているが、スライムなどのモンスターはあちこちに生息している。人の多い場所では決して出現しないが、それこそ辺境の地となれば、そこら辺にうじゃうじゃいるだろう。
「俺の予想だが、ターゲットは冒険者か誰かを仲間にしている可能性が高いな」
狭い乗合自動車の中で、ウルカはティオに耳打ちをした。メレ国の中でも田舎の方面を回るこの車には、モンスター対策用の騎士まで乗り合わせている。貴族たちが交代で派遣する、お抱え騎士のことだ。
「まぁ、そうだよね。だってジークって人、戦闘得意じゃないんでしょ? モンスターを退治してくれる仲間がいなきゃ、辺境でレストランなんて経営できないもん」
彼は手すりに捕まって、足をブラブラさせている。先ほど乗ってきた家族連れに、席を譲ったのだ。
「冒険者の間で有名になって、そこから中心地にまで噂が流れた……、って感じじゃないの?」
「ああ。俺もそう思う」
ウルカの髪の毛は後ろで纏められ、途中で何箇所か結ばれている。出掛ける前にティオにやられたものだ。
「冒険者を何人仲間にしているのかは読めないが、腕のいいのが混じっていると厄介だな。戦闘は避けるに越したことはないが……、一応、用心しておいてくれ」
「はーい」
今日のティオは、軽装の女冒険者のような服装をしている。あれほど地下に衣装があるのに、また新しいものを買ったらしい。散財傾向が強いのは、友人のライチとさほど変わらない。
「どう動くかは、相手の人数次第だな。まずはふらっと店に立ち寄った体で行く」
ウルカはアーチャー用の胸当てをいじりながら、ゆっくりと外を眺めた。抜けるような青空が、どこまでも続いている。
「僕、すっごく可愛い感じで行くからね」
そう言って、よく分からないポーズを取り始めるティオ。彼の中での女冒険者のイメージは、こんな感じなのだろうか。
「……どうでもいいが、フォローできないことをするのは止めろよ」
やや白けた瞳でそれを見つめ、ウルカは再び車窓を見遣った。千年以上一緒に暮らしてはいるが、未だに彼のことをよく掴み切れないでいる。




