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「憎くて憎くて仕方がない。そんな顔をしてるねぇ」
――オスカーは驚いて、ばっとドアの方を向いた。誰もいないが、確かに声が聞こえたような気がする。
「おいおい、おっさん。こっちだ、こっち!」
一通りぐるっと部屋を見回した彼は、ようやく声の主が分かった。窓の外、豪華な縁の端。藤色の髪を持った吸血鬼が、そこに腰掛けていたのだ。
「……!?」
「そんなに驚くことないだろ。通りすがりの吸血鬼さ」
オスカーが窓を開けると、吸血鬼はふわっと室内に飛び込んできた。咄嗟に警戒したものの、特に襲ってくる様子もない。
「……何なんだ、一体」
「おっさん、困ってるみたいだからさ。いい場所教えてやろうと思って」
「いい場所だと……?」
オスカーが引きつったような顔をすると、吸血鬼は藍色の瞳でじっと見つめてきた。心中を探るような、鋭い目つきだ。
「妬ましい相手がいるんだろ? そいつに、復讐の一つでもしてみたいんだろ? だったらおれが、いい場所を教えてやる」
……オスカーの頭の中に、ジークの顔が描かれる。あれほど手を尽くしたのに、スキルを使いこなせなかった息子。苦渋の決断で追放した後に、あっけなくスキルを覚醒させた息子。高名な貴族の目に留まって、名を馳せた息子。その全てが浮かんでは消え、彼の顔を醜く歪めた。
「紹介料は金貨一枚。どうだ? いい話だろ?」
吸血鬼の甘い誘惑。これが、最後のチャンスだ。
――オスカーはガタッと引き出しを開け、皮の袋を掴み取った。その中には、金貨が二十枚。もしもの時の、非常用だ。
「連れて行け」
右手の指で金貨を一枚取り出し、吸血鬼に手渡した。吸血鬼はニヤッと笑みを浮かべ、受け取った金貨を指で弾く。
「りょーかいっと」
黄金のコインが、夜空で美しい軌道を描く。それが、復讐の合図だった。




