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オスカーとステラは何とかして、ジークのスキルを活かそうとした。魔法の勉強も得意でない息子に残された道は、剣術や武術に長けることと、人々が舌鼓を打つような料理を作ることしかなかった。
「ジーク、今日も料理の勉強をしましょうね」
ステラはそう言って優しい言葉を掛けたが、対するジークはいつも不機嫌で、渋々調理室に立たされていた。
「何で料理なんか!!」
「仕方がないでしょう? あなたはスキルを活かさないといけないんだから」
何とか無理やり調理器具を持たせた後は、全てキッチン担当に一任するのだが、その担当も頭を抱えていた。
「奥様、ジーク坊ちゃんはダメですよ。どんなに教えても、見栄えのいい料理ができるだけで、味は全然ダメでさぁ」
「そんなこと言わずに、何とかならないの?」
「第一ね、坊ちゃんには熱意がない。イヤイヤ作った料理が、うまいと思いますか?」
「そ、それは……」
キッチン担当の投げやりなセリフを聞いて、落胆する日々。結局この日にできたホールケーキも、味が混雑していて実に微妙だった。
「……もう、駄目だな」
屋敷が寝静まった真夜中。オスカーとステラはジャスミンティーを飲みながら、神妙な面持ちで話していた。
「……私も、もう疲れてしまいました」
ステラの肩は小さく震えている。自分が腹を痛めて生んだ子どもだ。辛いのも、無理はない。
「いくら手を尽くしても、ジークは何も上達しません。それが嫌になって、ついつい長男たちを可愛がってしまって……。私、母親失格ですね……」
彼女の繊細な指が握られていくのを見て、オスカーはぐっと胸が詰まった。
「ステラ、自分を責めないでくれ。おまえは何も悪くない。悪いのはジークだ」
「ううっ……。すみません……」
……妻のか細い声を聞いて、ついにオスカーは決意した。あの出来損ないの四男を、辺境の地に追放しようと。これ以上、妻が自分を追い詰めないように。




