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「くそっ!」
準男爵を冠するロール家のオスカーは、レオの中心部に置かれた可愛らしい屋敷の中で、苛立たしげな声を上げた。彼の祖父が遺してくれた、小さいながらも立派な屋敷。その磨かれた廊下を、彼はイライラしながら歩いている。
彼がいきり立っているのは、あろうことか自分が追い出したはずの四男が原因だった。実の息子を追放しておきながら、それに関して怒っているのだ。
「オスカー、少し落ち着いてください」
彼の後ろで焦ったようになだめてくるのは、妻のステラだ。茶色い髪を上品にアップにした彼女は、年齢よりも若く見られることが多い。
「落ち着いていられるか!! あのジークが、長男たちよりも名を馳せているんだぞ!?」
オスカーは乱暴にそう言い放つと、さっさと廊下を立ち去ってしまう。残されたステラは、「はぁ」と静かにため息をついた。
「でも、私もそう思うわ。まさかあのジークがねぇ……」
一般的に、貴族は血筋が大切となってくるが、あまり順位の高くない準男爵となると、そればかりに注視しているわけにはいかない。より多くの評価点を得て、より多くの名声を浴びなくてはならないのだ。そのために必要なのが、スキルの活用。スキルを上手く利用して、自分の家の名を売るのだ。
オスカーとステラの間には、四人の息子がいる。スキルの保有は生来のものなので、決して選択することはできないが、上の三人は非常に優秀なスキルを持っていた。そのようなこともあって、オスカーもステラも期待していたのだ。「四男のジークも、きっと優秀なスキルを持っているだろう」と。




