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「以上で、全てのパフォーマンスが終了しました。出場者の皆さん、お疲れさまでした」
四十五分後、アナウンサーが終了の合図を告げた。観客は各々立ち上がり、中には帰り支度を始めている者もいる。
(終わったか)
あのハーフエルフは、結局現れなかった。もしかしたら、あのまま帰ったのかもしれない。ウルカはお辞儀をするアナウンサーを見つめながら、ユリネたちを迎えるために席を立とうとした。
「あのっ!! 待ってください!!」
――舞台の端、下手側。突然現れた出場者に、観客は一斉に注目した。
「すみません、追加の出場者です」
アシスタントが司会の男性にそう耳打ち、一枚のカンペを手渡した。息を切らしているところを見るに、本当についさっき来たのだろう。
「本物の飛び入り参加だね。もちろん、私は大歓迎だ」
ナノの嬉しそうな声が、後ろから飛んでくる。この貴族、本当に芸術が好きらしい。
「それでは、エントリーナンバー103番。ナズィ」
名前を呼ばれた彼女は、顔を上げて堂々と歩き始めた。弦の張られた小型の楽器を左手に、大型マイクの前にすっと立つ。
(……見違えたな)
白とピンクのグラデーションが美しい、見た目も華やかなドレス。あれほどボサボサだったベージュ色の髪の毛は、複雑な技量できれいに編み込まれている。化粧もバッチリで、繊細な色遣いが、彼女の顔をより一層際立たせていた。
(結果は分かり切っているが……。一応、聞いておくか)
素人のウルカでも、これは確信していた。彼女は紛れもない逸材だ。確実に、優勝するだろう。
「よろしくお願いします」
ナズィは一礼し、すっと息を吸う。右手を弦に掛け、ターコイズブルーの瞳を輝かせ、そして優しい音色で歌い始めた。
「おぉ……」
……どこからともなく上がる、感嘆の声。彼女の柔らかい歌声が、母親の思いを乗せて、温かな世界を創り上げていく。
(ティオのやつも、きっと喜んでいるんじゃないか?)
歌の途中、ウルカの心の中に、楽しげなスタイリストの顔が浮かんだ。彼もティオも、決して表舞台に立つことはできない。しかし、裏方だからこそできることもあるのだ。彼は生きいきとした表情で歌うナズィの容姿を、遠くから小さく眺めた。




