15
音楽堂の赤い座席に腰掛けたウルカは、ぐるっと辺りを一瞥した。大きな観客席に、多くの観客。その後列では、審査員の貴族たちが着席している。主催者のオルアン家を始めとした、名高い貴族の面々。その中に、ジャスミン家のマツリカ令嬢の姿もあった。隣に座っているのは、彼女の兄であるシルク。白い髪と黄緑色の瞳が、妹と同じくよく映える。
「お待たせいたしました。只今より、『歌・合唱の部』を開幕いたします」
舞台上にたった司会の男性が、ぺこりと頭を下げる。それとともに拍手が起こり、いよいよ雰囲気が高まってきた。
「エントリーナンバー1番――」
彼のアナウンスを聞きながら、ウルカはちらりと右方の掛け時計を見遣った。時刻は午後三時。参加者は百組ほどだ。
(あのハーフエルフ、果たして間に合うのか?)
舞台上で歌える時間は一分ほど。回転が良く、審査も速ければ、五時半には終了するだろう。
(まぁ、間に合わなかったらそれまでだな。ティオの練習台になるだけ十分だろう)
舞台上では、すでに出場者の交代がおこなわれている。本当に、あっという間なのだ。
(……一番の心配は、ユリネたちだしな。何の歌を歌うのか知らないが、本当に大丈夫なのか?)
ゆらゆら左右に揺れているエントリーナンバー2番を見つめながら、ウルカは頭に例の三人を思い浮かべた。本当に、それだけが心配だ。




