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……直後、ギィッと木製のドアが軋む音。「客が来ない」と言った傍から、客が来てしまったようだ。
「あ、お客さん?」
ティオはさっとテーブルの上の雑誌を片付け、入り口に目を向けた。ベージュ色の髪を持つ、ひどく薄汚い少女がいる。
「あ、あの……」
彼女は黒地のコートを肩に掛けたまま、その場でもじもじしている。そのコート、ティオは見覚えがあった。
「あれ? そのコート、ウルカのじゃない?」
彼は入り口の少女に近付いて、中に入るように促した。ボサボサの髪の毛から見える、少し尖った耳。一目で亜人だと分かる。
「ここまで来させたってことは、依頼人かな?」
ヴァニラは来店したハーフエルフをちらりと見たが、すぐに興味がなさそうにタルトを食べ始めた。赤い果実が彼女の口に運ばれ、プチプチとした音を立てる。
「ウルカさんって言うんですか、あの人……。黒い髪に、真っ白な瞳で……」
「ああ、やっぱり、ウルカに会ったんだ。彼は何て?」
椅子に座らせ、背負った楽器を下ろさせると、彼女はようやく一息ついたように話し始めた。
「私、芸術祭のオーディションに出るためのお金がなくて、会場の前でわんわん泣いちゃったんです。そうしたらウルカさんが、『優勝する気があるなら、パン屋の路地裏にいるやつらが手を貸してくれる』って言ってくれて……」
「……はーん、なるほどね」
一見ただの人助けだが、ティオにはウルカの善意の裏が透けてよく見えた。ただの貧乏出場者なら、彼が甘い言葉を掛けるはずがない。おそらく、賞金の山分けでも狙っているのだろう。この少女には、それだけの素質があるということだ。
「いいよ。ウルカの言うことだしね。僕にできることなら、何だってするよ」
「……ほ、本当ですか!?」
途端に、彼女の顔がぱあっと笑顔に包まれる。その顔は、草原に咲く健気な花のようだった。
「うん。まずは、ちゃんとした服に着替えようね。えーっと、名前は?」
「あ、ナズィです!」
「ナズィ、こっち来て」
ティオはナズィの手を引っ張り、地下へと降りる。ここからは、彼の得意分野だ。




