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午後の光を受けた路地裏のカフェは、ふんわりとした明るさがあった。並べられた簡素なテーブルの上で、ティオは三冊の雑誌を広げ、真剣な様子でペラペラとめくる。店番を兼ねた、ヘアスタイル研究だ。
「ヴァニラー」
客が全く来ないのを良いことに、彼はひっきりなしにヴァニラを呼びつけては、ショートヘアーをちょこちょこといじっている。最初は大人しくしていたヴァニラだったが、彼が何度もなんども呼ぶので、少々苛立ち始めていた。
「ぐるる……」
「怖いなぁ、牙剝かないでよ」
ティオはキッチンで冷やされていたタルトを持ってきて、ヴァニラに「はい」と手渡した。木箱のような形の、最新型の冷蔵庫。その中に入っていたケーキなので、十中八九客に提供するものだろう。
「お客さん全然来ないし、食べていいよ。その代わり、ちょっとここに座ってね」
「……」
ヴァニラは果物の乗った美味しそうなタルトを目にした途端、うなるのを止めて静かにティオの言うことを聞いた。その様子はまるで、餌付けされたペットのようだ。
「今度はね、この雑誌に書いてあるやり方でやってみるから」
カラフルな女性雑誌を片手に、彼は右手で赤毛をいじり始めた。こういうことは、依頼のないときにしかできないのだ。




