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「私の母は人間でした。ルラ国でシンガーとして活動する、ごく普通の人間だったんです」
ぽつりぽつりと過去を明かし始めた彼女。その髪が、風に乗って静かに流れた。
「ある日、作曲活動のためにルラとキニの間の森に入った母は、そこで父と出会いました。容姿端麗なエルフである父に一目惚れしてしまった母は、ルラの住民でありながら父と駆け落ちしたんです。亜人差別の激しいルラで、しかもシンガーとして比較的売れていた母の駆け落ち騒動は、すぐさま槍玉にあげられました。そんな中で生まれたのが、私です」
エルフの血が濃く流れる彼女。この髪の瞳も、父親譲りなのだろう。
「ルラでも暮らせず、父のいた里でも歓迎されず、私たちは森の奥でひっそりと暮らすことになりました。それでも、数年前までは平穏だったんです。アーネラに見つかってしまうまでは……」
シンガーとして有名だった母親。アーネラに遭遇してしまったら最後、当然ただでは済まなかった。
「咄嗟に逃がされた私は無事でした。ですが父と母は……。どうなってしまったのかは分かりません。けど……」
言葉は曖昧だが、ウルカには分かる。父親は叩きのめされた上で連行され、母親はその場で抹殺されたのだろう。
「私の母はメレの出身で、この芸術祭のオーディションでデビューしたんです。だから私、ずっとこのオーディションに出たかった……」
両親もいなければ、出場料すらも払えない。ボロボロのハーフエルフは、悔しそうに顔を歪めた。
「オーディションの優勝賞金。おまえは知っているか?」
「……え?」
沈黙を裂いたウルカの言葉。その意外な単語に、少女は首をかしげた。
「俺もついさっき知ったんだが、金貨二十枚だそうだ。二十枚もあれば、一年は贅沢できるな。さすがは貴族が主催するイベントだ」
「はぁ……」
ウルカはコートを脱いで、彼女の寒そうな肩にそっと掛ける。そのままさっと踵を返して、音楽堂の方を向いた。
「ここを真っ直ぐ行くと、右手に『ウルプア』という名前のパン屋がある。そこの細い道を曲がってみろ。おまえが優勝する気があるなら、そこにいるやつらが手を貸してくれるはずだ」
「え? あの……」
「悪いが、俺の連れがオーディションに参加するんだ。後の判断はおまえに任せる」
それだけ言い残すと、ポカンとしている彼女を置いて、ウルカはその場を去った。ユリネたちが出場する番はいつだろうか、そんなことを考えながら。




