11
混雑の激しい音楽堂前を避け、近くの小道へ。ウルカに無理やり連れて来られた亜人の少女は、相変わらずグズグズと泣いている。
「ハーフエルフ。人間に家でも焼き払われたのか?」
彼女の耳を見つめながら、ウルカは尋ねる。楽器を背負っているあたり、奴隷ではなさそうだが、何かひと悶着あったことが伺える。
「うっ……。ぐすっ……」
ハーフエルフは何も答えない。座り込んで、ずっと下を向いている。
「……話す気がないなら、歌の一つでも歌ってみろ」
……数分後、上下する少女の肩を眺めているのに飽きたウルカは、突如こんな提案をした。目の前の彼女も、少し驚いたように涙を拭う。
「オーディションに出たいんだろう? なら、歌は歌えるはずだ」
しばらくブルーの瞳をパチパチさせていた彼女だったが、ウルカの「早くしろ」の声とともにのろのろと立ち上がった。七本の弦が張られた小型の楽器を手に、涙目のまま、ようやく旋律を口ずさむ。
――それは、優しいメロディーだった。右手が生み出す弦の音色。その音にふわっと重なる、柔らかい歌詞。懐かしい日々を思い起こさせるような、淡く儚い歌。
彼女の透明な歌声は、希少の宝石のようにまばゆく輝き、観客を徐々に魅了していく。ウルカはあくまで無表情だったが、内心では感心していた。このような歌い方は、早々できるものではない。
「……はい」
一通り演奏を終えたハーフエルフは、歌とは相反する悲しみを浮かべて楽器を下におろした。いくら上手に歌っても、オーディションに出れはしない。そんな諦めが漂っている。
「上手いな。オーディションに出たいと言うだけのことはある」
ウルカが素直に褒めると、彼女は投げやりに頭を下げた。
「……この歌、私の母が作ってくれたんです」
その途端、また泣きそうな顔になる彼女。ウルカはその瞳をじっと見つめ、続きの言葉を待つ。




