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数十分後、双子たちによって「シフォン」と名付けられたホムンクルスとともに、ウルカは再び中心部に向かっていた。ユリネがどうしても音楽堂に行きたいと言うのだ。
「ユリネねー! オーディション出たい!」
「オーディション……。まさか歌うのか?」
「うん! 歌う!」
午後の音楽堂でおこなわれるのは、一般応募のオーディション。芸術祭の目玉だ。このオーディションは何部門かに分かれており、それぞれ当日参加が可能となっている。一部門ごとの倍率はそれほど高くないとは思うが、ユリネが出場したがるのは驚きだった。
「ユリネ、歌えるの……?」
「歌えるうたえるー! アーアー!!」
「……パワーだけで押し切ろうとしてないか?」
「してないよー! ラララー!!」
ウルカはユリネの言動に不安になりつつも、彼女の好きにやらせることにした。いつもカフェの店番ばかりで、彼女も退屈なのだろう。
「まぁ、出たいなら出てこい。出場料は銀貨五枚だったか?」
「ありがとー!」
皮袋から銀貨を五枚取り出し、ユリネの手の平に乗せる。銀貨百枚で金貨一枚。デビューする可能性があると考えたら、銀貨五枚など安いものだ。
「じゃ、行こう!」
「……えっ!? わ、私も!?」
突然手を引っ張られたチャイは、前につんのめって転びそうになる。ユリネの頭の中では、すでにグループで参加することは決定していたようだ。
「チャイもシフォンも一緒に出るの! グループ名は『エレエレ☆ケオケオ』! 略して『エレケオ』ー!」
「え、えええぇぇ……」
「ふえぇぇ……」
出場する気などさらさらなかったチャイは盛大に慌て、突然指名されたシフォンは間の抜けた声を上げた。どのような歌を歌うのかすらも知らされないまま、二人はユリネに引っ張られ、ズルズルとその場を後にした。




