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「お客さーん。ちょっと見ていかない?」
……そのとき、斜め右の死角から聞き覚えのある声が飛んできた。少し低めの女性の口調。このような人気のほとんどない場所で商売をするとは、あまり儲からなそうだ。
明らかに呼ばれている気配を感じ、ウルカはゆっくりと死角を折れた。そこにいたのは、高価なローブを羽織った銀色の眼鏡の女性。赤ワインのような髪の毛を粗雑に後ろで結び、下品な座り方で路地を占領している。
「パルフェ。何故ここにいる」
ウルカが目線を合わせると、彼女は紫色の瞳を細めて「へへっ」と笑った。
「メレ国で芸術祭やってるって聞いてさー。これは儲かるかも! ……って思って」
彼女が住むのは、隣国のキニ。わざわざ国をまたいで来たのだ。
「こんな路地裏で儲けようとしているのか?」
「それがさぁ、大通りで出店しようとしたら、怒られちゃったんだよね。『怪しい店はお断り』ってさ」
そう言いながら、パルフェはシートの上で売り物を見せびらかした。小さなちいさな半動物の亜人たちが、ちまちまと動き回っている。
「世にも奇妙なホムンクルス! どう? 一体当たり金貨十枚だよ!」
「小さい割に値段が高いな。もっと値引け」
「ったく、ウルカはケチ臭いねぇ」
ウルカの冷淡な反応に、彼女は肩をすくめて煙草を取り出した。ホムンクルスたちの真上で火を付け、ルーティーンのごとく口元に運ぶ。
「錬金術師だって、かなりレアなのにさ。おまけにホムンクルスと言ったらなお更だよ?」
「それは分かるが、金貨十枚は高いだろう。貴族でも狙っているのか?」
「別にそうじゃないけどさ、結構大変なんだよ、作るのは」
パルフェは文字通りの錬金術師で、主に生物の錬成を対象としている。彼女の腕は中々のもので、この程度のホムンクルスならば比較的簡単に作り出してしまうのだ。
「なぁウルカ、頼むよー! ほら、この兎人とかどう? 女の子だよ!」
彼女はちょこちょこ動くホムンクルスをひょいと摘まみ、ウルカの前にずいと差し出す。突然持ち上げられた白兎の亜人は、状況が分からずにおろおろしていた。
「こいつは喋れるのか?」
「喋れるしゃべれる! 何ならサイズ以外は、普通の亜人と変わらないよ!」
ウルカの手の平に乗せられた兎人は、小さな声で「あう……」とつぶやく。灰色の瞳をパチパチさせながら、黒い髪をぎこちなく揺らしていた。
「……金貨十枚だったか?」
小さなこの生き物、チャイに渡したら喜びそうだ。パルフェの押し売りに少々根負けしたウルカは、懐から皮の袋を取り出した。
「まいどありー!」
金貨十枚、しっかり受け取ったパルフェは、嬉しそうな声を上げる。ウルカは少し怯え気味のホムンクルスを、そっと肩に乗せた。




