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「いえ、お気になさらないで。私も、自己紹介をした方が良かったわね」
そう言うと、彼女は日傘を畳み、隣のメイドに預けた。すっと姿勢を正して、社交辞令を始める。
「ジャスミン家の第一令嬢、マツリカと申します」
ドレスの裾をつまみ、ゆっくりと体を沈ませる。まさに、整った様式美。
「ユリネはユリネ! で、こっちはチャイ!」
自己紹介返しのつもりなのか、ユリネも彼女に向かって粗雑な紹介を始めた。両手をバタバタと動かしながら、ビクビクしているチャイの肩を叩く。
「後ろはウルカだよ! よろしくー!」
「ええ、よろしく」
マツリカはにっこりしながら、首を可愛らしく傾けた。ジャスミン家は大層寛容であるとよく噂になるが、こういうところにもよく表れている。
「お嬢様、そろそろお時間です」
メイドがそう言って、彼女に日傘を差し出した。性別の分かりにくい中性的な声で、はっきりと発音する。
「シルク様もお待ちですので、音楽堂へ向かいましょう」
「そうね、トーチ。お兄様をあまり待たせてはいけないわね」
マツリカは日傘を開け、小さく頭を下げた。
「それでは、私はここで」
「じゃーねー!」
ブンブンと手を振るユリネに手を振り返しながら、彼女は奥へと消えていった。煌びやかな方向、豪華な音楽堂の方面へと。




