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芸術祭はメレ国で二百年以上続く伝統行事で、オルアン家が代々主体となって一週間かけておこなわれるイベントだ。ミュージカルや絵画展などが開かれる他、一般応募のオーディションなども同時に開催され、貴族だけではなく一般市民も楽しめるものとなっている。屋台や露店なども立ち並ぶので、純粋に食べ歩くだけでも気分が上がる。
普段は容易に立ち入ることのできない、名門貴族が名を連ねる中心部も、この芸術祭の期間中は解放される。ウルカは双子たちを引き連れ、外に展示された美しい風景画の数々を鑑賞した。
「見てみて! この絵のタイトル、『天界』だって!」
「ええ……? 全然こんなんじゃないよ……」
「実際はもっとドロドロしてるよねー! あはははー!」
ユリネとチャイはワインの入ったコップを片手に、天界がモデルの絵画にいちゃもんを付けている。天界出身の彼女たちが言うのだから、おそらく本当のことなのだろう。芸術家が想像で描いたものなのだ、現実と違うのは無理もない。
「ウルカー! この絵、ウルカがよく行く森に似てない!?」
ユリネが次に指差したのは、繊細な緑が美しい大判の絵画。森全体を描いたものだが、葉の一枚いちまいの描写が、実に見事だ。空の青も本物のようで、今にも雲が流れそうだ。
「そうだな。モデルにしたのかもしれない」
ウルカは植物採取のために、頻繁にレオの近くの森に足を運んでいる。都市がどれほどの変貌を遂げようと、森はフェアリー族がいた頃のまま、何一つ変わらない。幼少期を懐古するわけではないが、暇さえあれば森に向かってしまう。
「すてきな絵だね……!」
ユリネの後ろから覗き込むチャイも、柔らかい表情を浮かべている。素人目でも良さの分かる、非常に出来の良い絵だった。




