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芸術の都・レオにも、冬が訪れた。昼間は一層短くなり、朝晩の冷え込みは激しい。
「寒くなってきたね」
秋には半袖短パン姿だったティオも、さすがに長袖を着始めたようだ。それにしても、薄着であることには変わりないが。
「おまえはもっと着込め」
ウルカはそう言いながら、コーヒー片手に朝食を取り始めた。最近は、近くのパン屋を頻繁に利用している。千七百年前には考えられなかった話だが、時代は便利な方向に進んだ。
ウルカのパンのにおいにつられたのか、ヴァニラがゴソゴソと起き上がる音が聞こえた。時刻は午前十時。さすがに起こそうかと思っていたところだ。
「ウールカー!!」
……そのとき、ドタドタと階段を下りるユリネの声がした。ドアが乱暴に開け放たれ、双子の天使二人がひょこっと顔を出す。
「ウルカ! 今週は何だ!?」
ユリネのその言葉に、ティオは「あー、もうそんな時期か」と頷いた。レオの都が属する、貴族の国・メレでは、冬になると必ずおこなわれるイベントがあるのだ。
「芸術祭だな」
ウルカの口調は、どこかお決まりのような雰囲気を孕んでいた。ここで暮らし始めてからずっと、彼は芸術祭の度にこの双子にねだられるのだ。
「ピンポンピンポーン! というわけで! 祭りじゃ祭りじゃー!!」
「ウルカ! えっと、街中に連れてって……!」
お揃いのワンピースを着て、ぴょんぴょんと無邪気に跳ねる二人。これも、例年通りのパターンだ。
「ティオ、留守番を頼む」
「はーい」
ウルカは黒地のコートを手に取り、必要な分の金銭を掴んだ。それを見た双子は、嬉しそうに顔を見合わせる。
「ユリネ、今年は歌聞きたーい!」
「私はお酒が飲めれば何でも……」
仲良さげに階段を上がっていく彼女たちの背中を見ながら、ウルカはコートを羽織った。この光景、果たしていつまで繰り返せるのだろうか。




