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しばらくすると、鬼人たちは満足した様子で席から立ち上がった。想定外の客・コロネも、「はー! なんか久しぶりに、沢山食ったなー!」と喜んでいる。
「ううっ……、疲れた……」
キッチンの奥で、へなへなと崩れるチャイ。ようやく、妹の催促から解放されたようだ。
「この度は、本当にありがとうございました」
村の代表格である赤鬼の青年が、ウルカたちに向かって丁寧に頭を下げた。後ろの鬼人たちも、彼に倣ってお辞儀をする。
「ああ」
ウルカは短く返事をして、ちらりとルーチェの顔を見遣った。青年の陰に隠れて俯いている彼。ついに、代価を支払うときだ。
「さて、報酬についてだが……」
ビクッと肩を震わせるルーチェに、ウルカはゆっくりと近付いた。不安そうに見つめる彼の母親を横目に、彼の小さな肩に右手を置く。
「ティオ」
ウルカの呼び掛けに顔を上げたティオは、彼の顔を見て「ふーん」と言って小さく笑った。彼の瞳が、どことなく穏やかだったからだ。
「僕の出番かな?」
「そうだ。こいつの髪を切る」
……その言葉を聞いたルーチェは、「えっ?」と驚きを露わにした。
「角じゃないのか……?」
「そのつもりだったが、気が変わった。おまえの髪の毛をいただこう」
ルーチェの手を引っ張り、適当な椅子に座らせる。やや戸惑う彼をティオに預け、そのままヴァニラの下へと戻った。
「何で角じゃなくなったんだ……?」
「さぁ? 何でだろうね」
首をかしげるルーチェに対し、ティオは大きな声で曖昧に言葉を返した。奥の席でじっと彼らの動きを見ているウルカに、ちらちらと視線を送っている。
「角は鬼人の誇りなんだろう?」
角の折られたルーチェの仲間たち。完全な角が残っているのは、最早ルーチェしかいない。
「誇りは、おまえ守っていけばいい」
ウルカのその口調は、少なからず優しさが含まれていた。
「ウルカ、自分で角を折るって提案したのに、どういう風の吹き回し?」
彼の言葉の裏を薄々感じているティオは、ニヤニヤしながら彼に赤い瞳を向ける。この代替案、実にウルカらしくない。
「気が変わったと言っているだろう」
「へー。本当にそれだけ?」
「鬱陶しい」
ウルカは面倒くさそうに左手を払い、さっと二人に背中を向けた。その後ろでは、胸が詰まったような表情を浮かべるルーチェの姿があった。




