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「全く……」
クプ監獄・A棟にある、アーネラ隊員の待機室。ケルスは「シュアンが暴れ始めた」との報告を受け、エハ監獄から急いでここに向かってきたのだ。
「ヴェガと言いあなたと言い、何故監獄を破壊しようとするのですか?」
彼の目の前には、少し俯き加減のシュアン。何をしようとしていたのか、自分でもよく覚えていないらしく、「……すまない」と小さくつぶやいている。
「私が間に合ったから良かったものの、あのままでは氷柱が監獄中を貫いていましたよ?」
「……いや、そうなのか?」
シュアンは首をかしげている。本当に、記憶が曖昧なようだ。
「まぁ、あなたはヴェガとは違いますから、突然暴れ始めるのはおかしな話だとは思いました。一体、何があったのですか?」
ケルスがそう尋ねると、シュアンはどことなく悔しそうな顔をした。どうやら、自分の思い通りにならなかったらしい。
「侵入者の相手をしていたのだが、取り逃がしてしまった。ただのエルフかと思って、無駄に相手をしていたのが悪かったな」
「侵入者……。こちらでもですか。どうやら、グルだったようですね」
ケルスは先ほどの人間を思い出す。人間がわざわざ監獄に侵入して、ついには亜人を救出するなど、少々おかしな話だと思っていたのだ。エルフと手を組んでいたのなら、これにも納得がいく。
「すまない。収容者を脱走させてしまうなど……」
「それほど気に負うこともありませんよ。おそらく、彼らの狙いは鬼人です。角も回収した後ですし、そもそも人数が少ないので、別に痛手でもありません」
ケルスはシュアンの瞳を見つめた。今は平常だが、暴れていたときは瞳孔が開き切っていたはずだ。
「問題は脱走した亜人の方ではなく、侵入者の方ですね。ただのエルフではなかったのですよね?」
「ああ。かつて滅んだ調合技術を使っていた上、私のスキルも通用しなかった。一体、どういうことだ……」
それを聞いたケルスは、首を傾けて腕を組む。エハ監獄に侵入した人間もそうだが、今回は実に不可解だ。
「やはり、妙ですね。先ほど私が出会った人間も、光属性魔法を使っていましたよ」
「何……!?」
シュアンの驚いた顔。誰しも、同じ反応をするだろう。
「ケルス、あの侵入者のことを調べるべきじゃないか?」
彼の顔には、興味がにじみ出ている。ヴェガもそうだが、アーネラの上層部は好奇心旺盛だ。と言うよりは、単に戦闘が好きなだけかもしれないが。
「それを決めるのは、私たちではありません。まずは、国に相談してからです」
当然、彼らは独断では動けない。今回のことも、アーネラのトップであるケルスが、国に子細に報告する必要がある。
「一応、他の監獄の様子も見てきます。あなたは任務に戻ってくださいね」
ケルスはシュアンをなだめ、そのまま監獄を後にした。舗装された道を、ゆっくりと歩く。
(まぁ……、あの人間たちのことが気になるのは、私も同じですがね)
国への言い訳を考えながら、彼は頭の隅でそう思った。願わくば、調査の許可が下りてほしいものだ。




