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E棟の最奥部。ヴァニラが乱暴にこじ開けた鉄格子を左手に、ウルカたちは壁の前に立った。行き止まりだが、無理やり道を作るほかない。
ヴァニラが壁に拳を叩き込み、表面を徐々に瓦解させる。いわゆる馬鹿力のようなものだが、こういうときには、彼女は実に頼もしい。
追っ手が角を曲がり切るほんの手前。ヴァニラの開けた穴が外の世界を通し、ウルカたちはE棟から脱出することができた。そのまま監獄の奥へと向かい、高い壁の前に立つ。
「頼んだ!」
ウルカのその声とともに、吸血鬼たちがバサッと空を舞った。鬼人たちはすぐに持ち上げられ、ふわりと宙を滑空する。紆余曲折あったが、ターゲットは無事に監獄から脱出することができた。
ヴァニラはそのまま壁をよじ登り、裏側へと着地する。残るはウルカだけだ。
「くそっ!! 逃がすか!!」
――E棟から出てきた隊員たちが、一斉に魔法を放つ。紅蓮の炎が舞い散り、ウルカの体を包み込んだ。
(……っ!)
体の皮膚が裂けるような感覚に、彼は思わず悶絶する。相殺のための薬瓶は、全て使い切ってしまった。まずい、このままでは……。
「ウルカ!!」
――その言葉を聞いた瞬間、ウルカの体は宙に浮いた。バサバサッという音とともに、監獄が後方に退いていく。
「……ライチか?」
顔を上げると、そこには藤色の髪と藍色の瞳があった。ウルカの呼び掛けに、彼はにこっと笑う。
「よっ! 無事で何より!」
そう言いながら、彼はこれ見よがしに抱きついてきた。刹那、二人のスピードが落ちる。
「無事ではない。あと、抱きついてないで早く飛べ」
「ちぇー! 何だよ、その言い方! せっかく助けてやったのに!」
ぶつくさ文句を垂れ流しながらも、ライチは言われた通りに前を向いて飛び始めた。これでようやく、ウルカはほっとした。
「ライチ。ティオたちはどうした?」
「ついさっき脱出したぜ。一人傷ついたみたいだけど、ちびっ子の仲間は全員無事だってさ」
「そうか」
アーネラと派手にぶつかってしまったが、何とか依頼は達成できた。そう思いながら、ウルカは遠のく監獄を見ながら、物騒な人間集団のことを思い返す。もう二度と、アーネラとは関わりたくない。しかし、それを選択するのは依頼人だ。代行業者である自分には、最早自分の運命さえも決めることができない。
(仕方がない。これが、滅びゆく者の定めだ)
滅んだはずの生き物。それが辿る道は、狭くて当然なのだ。少なくとも、彼はそう思っている。




