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異世界「ざまぁ」代行業者  作者: 田中なも
3-素晴らしき人間の栄華
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23

「……めるな」

 ――刹那、ウルカの目に映ったのは、よろよろと立ち上がったシュアンの姿だった。あれほど強い錯乱薬を打ち込んだのに、彼は自我を保っている。

「何……!?」

 ウルカは顔に焦りをにじませ、ビルの間を飛び移った。あの人間、常人ではない。

「亜人風情がっ、なめるなぁぁぁっ!!」

 シュアンは瞳孔を大きく開き、無限の魔法陣を召喚した。幾重もの魔法陣。縦横無尽に張り巡らされたそれは、ウルカだけでなく他のアーネラ隊員をも驚かせる。

「これは……、まずいぞ!!」

「シュアン様、気を確かに!!」

 この焦り具合、何をしようとしているのかは容易に想像できる。

(まさか……。毒の効き方がおかしいのか?)

 ウルカはビルの上から、シュアンの様子を確認した。全体攻撃を仕掛ける彼と、それを必死で止める隊員。……思わぬ形だが、上手く足止めに成功したようだ。

(何にせよ、今がチャンスだな)

 ウルカは影のようにビルを飛び移り、一気にE棟へと向かった。その後ろから、「おい! 侵入者を逃がすな!」という声が聞こえてくる。

「ラアウ!」

 ウルカは攻撃を放ちつつ、全力でE棟へと滑り込んだ。背後に炎の熱を感じたのと、薄暗いE棟に転がり込んだのは、まさにほぼ同時。間一髪、ウルカはアーネラの攻撃を避け切った。

「ぐうっ……」

 先ほど受けた傷が痛むが、もたもたしている場合ではない。追っ手が来る前に、さっさと救出しなければ……。


 ……そのとき、奥から足音が聞こえてきた。五、六人ほどが廊下を蹴る音。その中に、ウルカが聞き慣れたものが混じっていた。

「ヴァニラ!」

 ヴァニラと鬼人たちが、ウルカの方へと駆け寄ってくる。どうやら、上手く隊員を撒いたヴァニラが、先にE棟に向かっていたらしい。

「さすがだな」

 疲れ切った声でそうつぶやくウルカに、ヴァニラはふっと笑い掛けた。少々荒手ではあったが、後は脱出するだけだ。

「吸血鬼たちは、この棟の奥の壁にいる――」

 ――扉から、ブーツが廊下を踏む音がする。早くしなければ、ここで追いつかれてしまう。

「ヴァニラ! 奥の壁から脱出するぞ!」

 頷くヴァニラとともに、「追え!!」という怒号が流れ込んできた。刻一刻と迫る追っ手。ウルカたちはそれを振り切るように、全力で廊下を走った。

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