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「どこ行くのー?」
トタトタと駆け寄ってくるヴェガ。彼女が建物の陰を覗き込んだのと、ティオが姿を消したのは、ほぼ同時だった。
「……えー? 今度はかくれんぼ?」
ティオが見当たらなくなった途端、彼女は明らかに不機嫌な声を出した。今までに見たこともないような魔法を使う相手。それ自体は非常に面白いのだが、コソコソされるのは気に食わない。
「……もういいや。あなたは玩具として相応しくない」
ヴェガは冷たくそう言い放ち、右手を高々と掲げた。直後、夜空の星々が一斉に煌めき、彼女の呼び掛けに呼応する。
「ホークー レレ!」
――きらりと瞬いた無数の星々が、空から滑るように流れ落ち始めた。ホークー レレ。流れ星を利用した、驚異的な広範囲攻撃。
「死ね!!」
少女が提案した、些細なゲーム。たったそれだけで、エハ監獄は美しい星の滑りに呑み込まれそうになっている。ティオだけではなく、収容されている全ての亜人を犠牲にして、彼女は自身の欲を満たそうとした。
(まずい……!)
ティオは咄嗟にロカヒを解除し、最大限の防御を張る。いくら姿を隠しても、攻撃が当たってしまったら意味がない。
「あっ! 見つけた!」
姿を現したティオを見て、ヴェガは嬉しそうににこっと笑った。それは、悪魔のような黒々とした笑み。
「逃がさないよ!!」
彼女が右手で指差すと、星々は一斉にティオに向かって襲い掛かる。無情な雨のような、恐れるべき洗礼。
(くっ……)
アホヌイが押され、バリアにひびが入り始める。このままでは、確実に体を貫かれて死んでしまう。無数の煌めきによって、ただの肉塊になってしまうだろう。
「やっぱり、今日は調子がいいなー」
呑気に左手を上げるヴェガ。黒い魔法陣がさらに大きくなり、より強力な魔法を生み出していく。
「よーし、もう一回! ホークー レレ――」




