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「ユピカ!!」
可愛い瞳を大きく見開いて、ヴェガは魔法を詠唱した。初っ端から、殺人級の無属性魔法。対策の難しい、非常に危険な属性の魔法だ。
――周囲の空気が異様に重くなり、紫色の閃光が明々する。通常の雷属性魔法とは比較にならないほどの、超高エネルギー。直視すら困難な光が、ティオの体を襲った。
「アホヌイ」
彼は光属性魔法を唱え、辺りを徹底的に防御した。魔法による防御は、今となっては彼にしかできない芸当だ。
……ティオを一斉に襲った閃光は、彼の防御の範囲に入った途端、朝霧のように消失した。見事に魔法を相殺されたヴェガは、「うぇー?」と子どものように口走る。
「何それー? もしかして、ズル?」
「レミ族には理解できないだろうね。驚いて当然だよ」
冷笑するティオにムッとした顔をした彼女だが、即座にニヤリと口角を上げた。
「じゃあ、これはどう!?」
仕切り直しだと言わんばかりに、左手を上げる彼女。刹那、全てを押し流す威力の水流が、空から一斉に零れ落ちてきた。空気は一気に澄み渡ったが、優雅に呼吸している余地などない。
「行くよー! アオ!」
透き通った水の流れが、全てをさらうようにティオを掬った。瞬時に防御を張り直した彼だが、そのあまりの威力にやや後方にまで押し流される。遊びにしては、実に凶悪だ。
「あははは! ズルしても無駄だよー!」
ヴェガは面白げに声を上げ、愉悦に浸っている。相手がどのような手を使ってこようが、勝てば良いのだ。実際、彼女はいつも勝利してきた。負けたことなど、一度もない。
「どうしたの? 守ってばっかじゃ、私つまんなーい!」
ティオは余裕の彼女を見て、少し目を細めた。敵は無尽蔵に魔法を唱える。長期戦に持ち込むのは、得策ではない。
本当は、敵の攻撃を全反射するフーラリを唱えたい。光属性魔法には攻撃魔法が存在しない。つまり光属性魔法しか使えないティオにとって、フーラリだけが唯一の実質的な攻撃魔法なのだ。迎撃対象の攻撃が強ければ強いほど、全反射は意味を成す。この状況下では、まさに打って付けの魔法だ。
しかし、光属性の究極魔法であるフーラリは、使用による魔力の消耗も激しい。決定打となる場面ならまだしも、今下手に使用すると、返り討ちにあう可能性もある。ティオは態勢を立て直しながら、使用と不使用の狭間で揺れた。
(……仕方ない。姿を消した状態で、確実に仕留めるか)
究極魔法との二重使用は実に疲れるが、こうでもしないと倒せそうにない。ティオは瞬時に建物の死角に入り、「ロカヒ」と小さくつぶやいた。




