表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界「ざまぁ」代行業者  作者: 田中なも
3-素晴らしき人間の栄華
52/151

16

「君は……」

「私? 私はヴェガ。この監獄の中をウロウロしてるの」

 彼女は穏やかな調子で楽しそうに話す。ティオは警戒して周囲を確認したが、他の隊員が寄って来る様子はない。

「せっかくのお客さんだし、一対一で遊ぼうと思ってさ」

 彼の考えを察したのか、ヴェガはそう言って腰に手を当てた。彼女の前では、この監獄もただの玩具でしかない。

「見た目の割には、随分と悪趣味だね。君には転向をお勧めするよ」

 ティオが優しく首を傾けると、彼女は「くくく……」と不気味な笑い声を上げた。

「分からない? これはアーネラにしかできない遊びなんだよ? 大量の亜人を捨て駒のように扱うなんて、普通の人間じゃできない。これは、私たちの特権なの」

 人権や国の経済など、どうでも良い。ただ純粋に、亜人が己に屈する姿を満喫したい。彼女の思考は、実に純粋で、そして残酷だった。

「あなただって、人間なんだから分かるでしょ? 階層の頂点に立つってことは、ゲームの勝者に与えられた特典なんだから」

 沈んだ監獄の中で響き渡る、ヴェガの楽しそうな笑い声。彼女にとって、亜人は娯楽のツールでしかない。

 

「……不快だなぁ」

 ……響く子どもの笑い声の中、ティオがぼそっとつぶやいた。赤い瞳を上げて、軽蔑したような視線を送る。

「君たちと同じにしないでよ」

 ヴェガはその言葉に首をかしげた。何を言っているのか不思議で仕方がないと言いたげに、ピンクの編み込みを左右に揺らす。

「どういうこと? 人間は人間でしょ? それ以上でもそれ以下でもない」

「今この世界でのさばってるのは、君たちのようなレミ族だろ? 下品で下劣な人間集団」

「んー? それはそうだよ。だって、この世界にはレミ族しかいないもん」

 ヴェガには理解できない。この世には、最早レミ人しか存在していないのだ。千年ほど前にいた少数民族は、全てレミ族によって討ち滅ぼされた……。

 

「……それが不快だって言ってるんだよ!!」

 ――怒号とともに、揺れ動く銀髪。珍しいことに、ティオが怒りを露わにしている。

「えー? 意味分かんなーい」

 ヴェガはあからさまに顔をしかめたが、すぐに「あはっ」と笑みを浮かべた。

「でも、怒ってるってことは、遊んでくれるってことだよね?」

 そう言うと、彼女は右手を天に掲げた。黒々とした魔法陣が現れ、夜空を美しく覆っていく。

「それじゃあ、ゲームを始めよう!!」

 透き通ったその声とともに、無数の星屑が空を支配した。本来ならばうっとりするはずの星空だが、これは戦闘開始の合図だ。

「ルールは簡単! 私を楽しませてくれたら、あなたの勝ち。でも、もし楽しくなかったら……」

 彼女はぐしゃっと右手を握りしめ、低い声でつぶやいた。

「……殺す」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ