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……数十分後、ティオたちは監獄の端にまでやって来た。音を立てないように、慎重に進んだせいで、思ったよりも時間が掛かってしまった。
壁の隙間から外を覗き込むと、ライチの仲間の吸血鬼がいる。ティオは周囲を確認して、ゆっくりと魔法を解除した。
「よろしく」
小さく声を掛けると、吸血鬼たちはバサッと宙を飛び、各々五人の鬼人の手を掴んだ。そのまま監獄の外まで運び、夜空を静かに飛んでいく。
「おー!」
そつない吸血鬼たちの救出劇に、感嘆の声を上げるコロネ。この動き、実に計画的だ。
「アタシたちも頼むよ!」
ショコラの呼び掛けに、吸血鬼の一人は首をかしげる。猫人に鼠人、予想外の運搬客だ。が、ひらひらと手を振るショコラを一瞥すると、ふわりとその華奢な体を持ち上げた。隣でぴょんぴょんと跳ねている鼠の手も、同時に掴んで宙に浮かす。
「こりゃあ、驚きだねぇ! 今日は初体験ばっかりだ!」
「わー! オレ、今空飛んでる!」
緊張感のない二人に半ば呆れつつも、ティオはほっと一息ついた。後は、自分が脱出するだけだ。
――そのとき、上空から「ぎゃあーーっ!!」というコロネの絶叫が上がった。直後、監獄の高い壁の向こう側で、吸血鬼がドサッと墜落した音が聞こえる。
「お、当たった!」
少女の無邪気な声が、遠方から微かに流れてくる。まるでゲームでもしているかのような、面白半分の口調。
「小さな星屑で、しかも一撃で倒せた! うん、今日は調子いいかも」
そう言いながら近づいてくる彼女は、実に愛らしい子どもの姿をしていた。ラベンダーのような落ち着いた瞳に、瑞々しい顔。淡いピンク色の髪の毛は、毛先の方まで丁寧に編み込まれている。身に着けている黒い軍服が、金の刺繍が入っていると言えども、かなり浮いて見える。
「最近警備ばっかでつまんなかったからさー、久しぶりに戦闘できるよ」
にこにこしながらティオを見つめる少女。わざと逃がしたとでも言わんばかりの余裕だ。




